第260話 機械仕掛けの扉

それから数十分ほど会話を続けていた火月達は、

置時計のアラーム音によって一旦話を中断する。


時計の針は十四時を回ろうとしていた。


「思った以上に話し込んでしまったみたいだ。

 せっかく足を運んでもらって申し訳ないんだけど、

 実はこれから会議が入っていてね、今日はこのまま解散でも大丈夫かな?」


「はい、聞きたいことは聞けたので大丈夫です」


そう言って火月がソファーから立ち上がると、ねぎしおも後に続く。


「そうだ、ねぎしお君を少し預かっても良いかな?

 足に着いている黒いリングのメンテナンスをしたくてね」


「えぇ、構いませんよ」


確か、リングにはGPS機能がついていたはずだ。

見かけはシンプルだが、

細かい部分で調整をする必要があるのだろう……と勝手に想像する。


「我の意見は聞かないんじゃな」


間髪入れずにねぎしおが不満の声を漏らす。


「ごめんごめん、一応保護者である中道君の許可をとっておこうと思ったのさ」


「こいつは我の保護者では無い、むしろ我が保護者みたいんなもんじゃ!」


「そうなのかい?」


「……そういうことにしておいてください」


「君たちの関係性も中々に興味深いね」


早見が微笑を浮かべてこちらを見ていた。


「それじゃあ、ねぎしお君。

 いつも通りちょっとメンテナンスに協力してもらいたいんだけど良いかな?」


「ふん、我の貴重な時間を奪うんじゃから、

 それなりのものを用意してもらえるんじゃろうな?」


「もちろんさ、会議が終わったら君を満足させるような食事を直ぐに手配するよ」


ついさっき、昼飯を食べたばかりなのにまだ食べるつもりなんだろうか……

と思った火月だったが、黙って成り行きを見守る。


「うむ、からあげは揚げ立てで頼むぞ」


「了解したよ。君の大好きな柚子胡椒も用意するように伝えておこう」


「まぁ、そこまでするなら協力してやらんこともない」


「ありがとう、恩に着るよ」


ねぎしおの扱い方が上手いなぁと感心していた火月は、

一つの疑問が頭に浮かぶ。


「そういえば、自分はどうやって帰ったら良いんでしょうか?

 正規の手順で本部に来ていないってことは―――」


「うん、来た時と同じように帰ってもらいたいな」


彼女が見慣れない機械の置いてある方へ歩いて行ったと思ったら、

ブルーシートが被さっている少し大きめの物体が視界に映る。


「ちょっとこれを剥がすのを手伝ってくれるかい?」


言われるままにブルーシートを剥がすと、

目の前に機械仕掛けの扉を連想させる装置が姿を現した。


色々なケーブルが縦横無尽に繋がっており、

精密な機器であることを一目で理解する。


「この装置が君たちをここに連れてきてくれたのさ」


そう言って早見が電源ボタンのようなものを押すと、

機械の稼働音が聞こえ始め、一瞬青い火花が飛び散る。


歯車が順調に回り始めると、

両開きの扉がギギギと音を立てながらゆっくりと開く。


扉の先に広がるのは、先の見通せないもやのかかった漆黒の空間だった。


「……この中に入らなくちゃいけないんですよね?」


思わす言葉が漏れる。


というのも、歯車の動きに合わせて周りの部品がガタガタと振動しており、

今にも爆発しそうな勢いだったからだ。


「もちろんさ、行きが大丈夫だったのなら帰りも大丈夫だろう」


その根拠のない自信が何処からやってくるのか心底不思議でならなかったが、

今更何を言ったところで扉に入る未来は変わらない。


「検証段階の扉に入るのは、これっきりでお願いします」


「なに、多分死ぬことはないからもっと気楽に考えてくれて大丈夫だよ」


バチバチと火花の飛ぶ回数が増えてきた扉を前に、

早見がアドバイスをしてくる。


もはや、高度なギャグなんじゃないかと思ってしまうほど

彼女の言葉に信憑性を感じられなかった。


ただ、ここでずっと立ち止まっている訳にもいかない。


ようやく意を決した火月は扉の方へ歩いて行くと、

そのまま暗闇の中に吸い込まれていった。


火月の姿が完全に見えなくなったのを確認した早見は

思い出したかのように一人呟く。


「そういえば、扉の送り先の座標って何処どこにしてたんだっけ?」

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