第256話 画伯

「それで、結局二人は知り合いなんですか?」


どうやって牛乳ラーメンを布教させるかについて、

熱い議論を繰り広げていた早見とねぎしおに

痺れを切らした火月が話しかける。


「あぁ、すまない。そもそもの話をするべきだったね」


少し前のめりの態勢になっていた早見が姿勢を戻して、こちらを向く。


「何を隠そう、ねぎしお君の定期健診を担当しているのは僕なんだ。

 だから、知り合いと言えば知り合いになるんじゃないかな」


「なるほど……」


検査のためにねぎしおが本部に預けられるケースは過去に何度もあったが、

その担当者が彼女だったのなら、二人の関係性も理解できる。


「ちなみに、君が作成しているねぎしお君の調査のレポートは、

 毎回僕がチェックしているんだけど、

 その件について一つ質問してもいいかな?」


「はい、何か問題でもありましたか?」


「問題……というほどのものではないんだが、

 レポートの中に毎回鳥のイラストが描いてあるだろう?

 あれは何だろうと思ってね」


「鳥のイラスト……ですか?」


基本的にねぎしおに関するレポートを作成しているので、

関係のない情報は記載していないはずだ。


顎に手を当てて思案する火月の前に、早見から一枚の紙が差し出される。


「実際に見てもらった方が早い。

 これは、先週送ってもらったレポートを印刷したものなんだけど、

 ほら、このレポートの余白に描いてあるじゃないか」


紙を受け取った火月は、

彼女が示す場所を確認すると確かにイラストが描いてあった。


「これ、ねぎしおです」


そう火月が呟くと、場が一瞬静まり返る。


「えっ、これがねぎしお君かい?」


数秒の間の後に、驚いた様子の早見と目が合う。


「はい……。

 文章だけでなく、見た目の情報も詳しく書いておいた方がいいかと思いまして」


「あぁ、そういうことだったんだね。

 確かによく見ればねぎしお君にそっくりだ。

 まったく、僕は芸術に関してはでね、

 審美眼を持っている人が羨ましい限りだよ」


「ほぅ、そこまでのものなら我も興味があるぞ」


二個目のカップ麺を食べ終わったねぎしおが

レポートを覗き込んでくる。


「何じゃこのふざけたイラストは? 

 我とは見ためが全然違うし、

 その辺に飛んでいる鳥を描くにしても、もう少しマシになるじゃろうに。

 評価するなら百点満点中五点といったところか。

 まぁ、小学生が頑張って描いたと思えば出来は十分だと思うぞ」


ねぎしおがそう発言した瞬間、

レポートを眺めていた火月はフリーズし、

額に手を当てた早見は天井を仰いだのだった。

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