第250話 平手打ち

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目を開けると、部屋の天井らしきものが視界に映る。


蛍光灯から降り注ぐ昼白色ちゅうはくしょくの光があまりにも眩しかったので、

左腕で顔を覆った火月は、

自分が病院のベッドのような場所で仰向けになっていることに気づいた。


『ここは一体……』


頭がボーっとする中、視線を動かして周りを見渡してみたものの、

やはり自分の知らない場所のようだ。


全体的に白を基調とした部屋で、見慣れない装置がいくつも置いてある。

装置にはたくさんのランプがついており、赤や緑にせわしなく色を変えていた。


一瞬何処かの研修施設かとも思ったが、

室内には家庭用のソファや小さい冷蔵庫のようなものも見えたので、

研究施設にしては随分と生活感が溢れているなと思った。


『どうして自分はこんな場所に?』


そもそもの状況が飲み込めず混乱していた火月は、

突然記憶がフラッシュバックするような感覚に襲われる。


『っ……!』


全身が強張り、額から汗が流れ落ちる。


『そうだ、ついさっきビルの屋上から――――』


ニスデールをまとった人物によって

地中の穴へ突き落とされたことを思い出した火月は、

あの状況で自分がまだ生きていた?ことに驚きを隠せなかった。


普通に考えてビルの屋上から落ちたなら、まず命は助からない……

とすれば、ここは天国か地獄、はたまた夢の中と考えるのが妥当だろう。


もし仮にここが死後の世界だったとしたら、

ロマンの欠片も無い、随分と俗っぽい場所だなぁと思う。


やはり何事も想像している内が一番楽しいものなんだな

と一人納得した火月はベッドの上でゆっくりと上半身を起こす。


「おや? ようやくお目覚めのようだね」


声のする方へ視線を向けると、

向かってベッドの左側に置いてあった丸椅子に、

白衣を着たピンク髪ツインテールの女性が座っていることに気づく。


「君が全然目を覚まさないから内心冷や冷やしてたんだ。

 何かあったら全部僕の責任だからね」


彼女がそう言い終えると、

丸椅子から立ち上がり顔を覗き込んでくる。


その顔立ちは女性といってもまだ幼さの残る少女といった印象を抱いた。


死後の世界?で自分を待っていたのは、

天使でも悪魔でもなく、ピンク髪ツインテールの中学生?なんて、

あまりにも味気無さすぎる。


「……なんだ、ただの子供か」


そう火月が呟いた次の瞬間、

彼女の表情がムッとしたと思ったら、強烈なビンタが炸裂したのだった。

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