第242話 有為転変

「して、お主らの茶番劇は一区切りついたのか?」


一連の流れを見守っていたねぎしおが、

呆れた様子で口を開く。


「ねぎしおちゃんもごめんねー。

 ちょっと脱線したけど話を元に戻すよ」


咳払いをした水樹さんがそのまま話を続ける。


「実は、現時点で一つハッキリわかったこともあるんだ」


「自分の問い合わせ内容に関して、

 組織が何かしらの回答を持っている……ということでしょうか?」


水樹さんを一瞥いちべつすると、彼女が小さく頷いた。


「うん。もし組織が何の情報も持っていないなら、

 わざわざ中道君達を本部に呼ぶ必要はないからさ、

 メールで何も知らないって回答すればいいだけの話でしょ。

 もちろん、情報を知っていても知らないの一点張りをするケースも

 あるとは思うけど、それをしなかったってことは―――」


「不特定多数に公表するのは困るが、

 特定の個人なら話しても問題ないレベルの情報ということじゃな」


「まぁ、そういうことになるよね。

 白とも黒とも言えないグレーな情報ってヤツなんだと思う」


「……」


三人の間に沈黙が流れる。


ちょっとした好奇心で聞いた自分の質問は、

どうやら簡単に答えが出るようなものではないらしい。


「組織の持っている情報が良い物なのか、

 それとも悪い物なのかまではわからないんだけどさ、

 何となくだけど、この件の話を聞いたら後戻りできなくなる……

 そんな気がするんだ。

 この世の中、知らない方が幸せだったってことなんていくらでもあるじゃない?

 中道君は、それでも知りたいって思う?」


水樹さんが真剣な眼差しでこちらを見ていた。


なるほど、彼女が直接会って話をしたかったのは

この確認をするためか……と理解する。


彼女の言う通り、

知らないでいた方が幸せだったなんてことは数えきれないほどある。


後悔する度に心の中は黒くにごっていき、

もし心というものに色がついているなら、自分は真っ黒もいいところだ。


大人になっても心を真っ白に維持できている人が

どれほどいるのかはわからないが、

決して数は多くないだろう。


よく自分は小さい頃と何も変わっていないと発言している人がいるが、

自分に言わせれば、そんなことを話している時点でもう既に変わっているのだ。

何故なら、本当に変わっていない人は、そんな言葉すら出てこないのだから。


『ゆくかわの流れはえずして、しかも、もとの水にあらず』


人も人の心も環境も、

変わっていないように見えるものは、あくまでもそう見えるだけ。


この世にはも存在しない……

そんなことは誰もが知っている事実だ。


おそらく、人は変わらないものなんて無いと分かっているくせに、

いや、わかっているからこそ、それがあると信じたい生き物なのかもしれない。

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