第241話 Q&A

包帯の男、ねぎしおに似た黒い鶏の怪物、追偲の扉……。


数週間前に久城伊紗くじょう いすずと扉を修復?した火月は、

その足でアタルデセルに向かい、

扉の中で起こった出来事を水樹さんへ報告した。


何か有益な情報があればと思っていたのだが、

話をした直後、彼女は少し考えるような素振りを見せるも

やはり心当たりがないとのことだった。


あの男の口振りから、

扉とねぎしおに何らかの関係があるのは容易に想像できる。


むしろ、それを見越した上で

組織が自分とねぎしおを一緒に行動させているのかとも思ったのだが、

水樹さんの様子から

少なくとも彼女は自分の知りたい情報をもっていないようだ。


結局、「組織に情報が無いか、問い合わせてみる」

とのことでその日は解散となり、ようやくその問い合わせ結果が来たので、

報告のためにわざわざ家に来てくれた……

というのが今に至るまでの大まかな流れだ。


「電話やメールでも良かったんだけど、

 やっぱり大事な話は直接会って伝えたかったからさ」


「わざわざ家まで来なくても、仕事終わりにお店へ寄りますよ?」


「うーん、普段通りならそれで問題ないんだけど、

 お店じゃ他の修復者が何時いつ来るかわからないからね。

 今回はなるべく邪魔が入らないような場所が良かったんだ」


『他の修復者に知られたくないレベルの内容……ということだろうか』


不穏な空気を感じつつ、水樹さんの話に耳を傾ける。


「貴女の質問事項に関しては、

 修復者、中道 火月とその鶏の怪物、両名が本部へ出向した際に直接回答する……

 だってさ」


「本部への出向……ですか?」


「うん、どうやら組織は私に情報を伝えるつもりはないみたい。

 本部に当事者を呼びつけるなんて滅多に聞かない話だよ。

 もしかして私、あんまり信用されてないのかな……。

 確かに最近は、スカウトの活動に注力できなかったけどさ、

 それでもお店の経営とか頑張ってやってるんだよ。

 それに―――」


変なスイッチが入ったのか、負のオーラをまといながら、

水樹さんがぶつぶつと一人呟く。


組織内における彼女の立ち位置は、

自分が想像している以上に苦労が絶えないものなんだろう。


本部と修復者の仲介役、

さながら上司と部下の両方からプレッシャーを受け、

板挟みになっている中間管理職のようにも見える彼女の仕事は、

自分には到底できるものではない。


「きっと何か理由があってのことなんだと思います。

 そもそも、水樹さんを本当に信用していないのなら、

 自分宛てに直接連絡が来るのではないでしょうか?」


このまま放置していたら、

彼女の日頃の鬱憤うっぷんを晴らす場になりかねないと判断した火月は、

何とか軌道修正を試みる。


「うーん、それもそうだね。

 ごめん、ちょっと愚痴っちゃったけど、この件はオフレコでお願い!」


水樹さんがウィンクしながら顔の前で手を合わせてきたので、

相変わらず切り替えの早い人だなぁと感心した火月だった。

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