第240話 跫音

「それで、何の用ですか?

 というより、家の場所を知ってる方が気になるんですけど」


「まぁまぁ、細かいことはいいじゃない。

 それよりも、さっきのどうだった?

 いやぁ~、一度あれやってみたかったんだよね。正直ドキドキした?」


「はぁ……、ある意味ドキドキはしましたけど」


「へぇ~。

 ってことは、やっぱり一定の効果は期待できるみたいだね」


うんうんと納得している水樹さんだったが、

一体何がしたかったのか、よくわからなかった。


「でも、わざわざドアフォンから姿を消す必要はなかったんじゃないですか?」


「それはそうなんだけど、

 中道君、私が来たってわかった時点で居留守とか使ってきそうじゃない?

 面倒な仕事を押し付けられるーとか思ってたり」


「…………別にそんなことないですよ」


図星を突かれて、一瞬返答が遅れる。


「まぁ、今こうやって部屋に入れてくれたから結果オーライなんだけどさ」


キッチンから出てきた火月は、

リビングテーブルに座っている水樹の目の前にマグカップを置くと

怪訝そうな表情で視線を送る。


「あー、お構いなく。

 いつもなら私が飲み物を出す側だからなんか新鮮だね。

 これはコーンスープかな?」


「あまり期待しないで下さい、ただのインスタントですから」


「今じゃインスタントも馬鹿に出来ないくらい美味しいよね。

 それじゃあ、折角だから頂きます」


手を温めるように両手でマグカップを持ち上げた水樹は、

ズズっとスープを飲み干す。


「冷えた身体に染みわたるよ、ご馳走様」


「まさか、本当に世間話をしに来たわけでもあるまい」


くちばしにビーフジャーキーを咥えたねぎしおが、会話に参加してくる。


「二人ともせっかちだなぁ。

 もう少し雑談を楽しみたいところではあるんだけど、

 うん……元々長居するつもりもなかったから、早速本題に入らせてもらうね」


姿勢を正した水樹さんが、火月とねぎしおを交互に見つめる。


「数週間前に中身君が教えてくれた追偲ついさいエレクシオについて、

 組織に問い合わせた結果が返ってきたの」


そう彼女が言い放った瞬間、

部屋中を緊張感漂う雰囲気が一気に包み込んだ。

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