第7章 朴訥

第237話 バレンタイン

『バレンタインデー』

誰しも一度は心をおどらせたことがあるイベントではないだろうか。


少なくとも学生の時なら、

例えチョコを貰える当てがなかったとしても、

心がソワソワしていた人も多いはずだ。


教室の中では、

『自分、バレンタインに全く興味ないですから』

みたいな雰囲気を漂わせている人も間違いなく意識していただろう。


何となく机の中に手を入れてみたり、何回も下駄箱へ向かってみたり、

意味もなく放課後は居残りをしてみたり、

そんな甘酸っぱい……いや、苦い思い出が自分にもあった……気がする。


でも、どうか安心して欲しい。


例えチョコが貰えなかったとしても、

社会人になれば義理チョコを貰えることがまれにある。


今の時代、自分へのご褒美にちょっと高めのチョコを買ったり、

仲が良い人同士でチョコを交換する友チョコなるものがメジャーになり、

職場の義理チョコ文化は廃れつつあるようだが、

それでもまだ火月の職場に関してはその文化が残っていた。


確かに異性からチョコを貰ったという事実は残るのだが、

念のため注意喚起しておきたいと思う。


それは、社会人になってから貰う義理チョコに喜びを見出せるほど、

もう心がピュアでなくなってしまっているということだ。


貰った時は確かに嬉しい……嬉しいのだが、

少し時間をおいて頭が冷めて来ると

『お返し』という強制イベントが発生した現実を突きつけられる。


ちなみに、自分が貰ったものよりも良い物を返しておくのが無難だ。


もちろん、これは別に絶対条件ではないので同等のもの、

もしくはそれ以下のものでも大丈夫と言えば大丈夫なのだが、

できれば良い物をチョイスしておくことをお勧めする。


理由なんて特にないが、いて言うなら

というやつだ。


会社の中における女性陣の横のつながりは、

我々が想像している以上に強固なものなのである。



――――――


――――――――――――



仕事終わりに最寄り駅のコンビニへ立ち寄った火月は、

出入口付近にバレンタインコーナーが設置されているのを目にする。


「もうそんな時期か……」と小さく息を吐くと、

おつまみコーナーの燻製チーズとビーフジャーキーを手に取り、

セルフレジがある方へ向かった。

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