第6章 another side

第232話 雪かき

玄関のドアを開けると、視界一面に銀世界が広がる。


昨晩から降り続いていた雪は止んでいたものの、

ぱっと見た限り五センチ近くは積もっているだろう。


本来なら、玄関を出て真っすぐアスファルトの道が伸びているのだが、

今は雪に隠れてしまっていた。


施設の周りに植えられている山茶花さざんかもすっかり雪化粧をしており、

鮮やかな赤い花を際立たせるのに一役買っていた。


この児童養護施設で働くようになってから、

これほどの積雪量は見たことがなかったので、思わずその光景に目を奪われる。


時間にして数分経過した頃、

自分のやろうとしていたことを思い出した初老の男性は、

急いで玄関へ戻ると、雪かき用のスコップを片手に再びドアから出てくる。


子供たちが登校する時間までに少しでも雪かきをしておこう

と意気込んではいたものの、

スコップを使って数回雪を動かしただけで腕と腰に痛みを感じる。


気持ちだけは若いつもりでいても、

身体がついてこなくなっている現実をと思い知らされた男性は、

そろそろ引退を検討する時期になったのかもしれない……

と今後の身の振り方について考えながら雪かきに集中する。


「凄い雪ですね、お手伝いしますよ」


黙々と一人で作業を続けていると、背中越しに誰かが話しかけてくる。


この雪じゃ、自宅の雪かきだけでも大変だろうに

ずいぶんと親切な人もいるものだなぁと思って後ろを振り返った男性は、

その人物を見て思わず目を開く。


「先生、お久しぶりです」


そこには、以前施設で預かっていた一人の女性が立っていた。


予期せぬ再会に少し面食らったが、

直ぐに頬を緩めた男性はいつもの言葉を投げかけた。


「えぇ、おかえりなさい」

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