第229話 切り落とされた火蓋

砂煙が徐々に薄れていき、視界が晴れていく。


包帯の男は、

先ほど吹き飛ばした砂岩が粉々に砕け散っているのを静かに眺めていた。


「あんたが取り逃がすなんて、明日は雪でも降るんじゃない?」


視線を真横に動かすと、

ぜぇぜぇと息を吐きながら黒い鶏がこちらを見上げていた。


「はっ、俺に言わせれば、お前が息を切らせている方が珍しいけどなぁ」


「まぁ、こっちも色々あったのよ……」


あまり思い出したくないのか、鶏が苦虫を嚙み潰したような表情をする。


どうやら、こいつはこいつで白い鶏と一悶着ひともんちゃくあったようだが、

心底どうでもよかった。


確かに、相手を逃がしてしまったのは紛れもない事実だが、

ターゲットと接触できただけでも今回は十分な成果だ。


『火月、中道……』


白い鶏と女の修復者があの男をそう呼んでいた気がする。

アイツも新たなターゲット候補に入れておこう。


状況から察するに、白い鶏と何かしら関係があるのは間違いない。


暗中模索状態だった自分の仕事がここに来てようやく動き始め、

思わず不敵な笑みがこぼれる。


「もうここは用済みだ」


大剣が姿


コートのポケットに両手を突っ込み、

地面がどんどん崩れていく異界の中をゆっくりと歩いて行く。


包帯の男が歩き始めたその先には、が出現しており、

その真っすぐな道は、男と黒い鶏が異界から姿を消すまでずっと残り続けていた。

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