第222話 決意

火月の手元から離れたねぎしおは二人の戦闘を見守っていた。


どうやら包帯の男は、完全に狙いを火月へ変更したらしい。

邪魔者さえ先に排除してしまえば、後はどうとでもなると考えたのだろう。


それにしても、何故この男が自分を狙っているのか

皆目見当がつかなかった。


失った過去の記憶と何か関係があるのかもしれないが……

少なくとも今はこの包帯の男について思い出せることは何一つなかった。


男が攻撃を繰り出しては、火月がそれを回避する。

まるで示し合わせた演舞のような攻防に思わず息を呑む。


一見すると、お互いの実力が拮抗きっこうしているかのように思えるが、

その表情は両者間で全く異なる。


というのも、火月の方は全神経を集中させて

相手の攻撃を注意深く観察しているのに対し、

男の方は剣先が何度も空を切っているにもかかわらず、心底楽しそうにしていた。


「あの様子じゃ、あんたのパートナーがやられるのも時間の問題ね」


不意に隣から声が聞こえたので顔を向けると、

黒い鶏の姿をした怪物?がねぎしおと同じように二人の戦闘を見守っていた。


「怪物風情が気安く話しかけるでないわ、我は高貴な存在じゃぞ?」


ねぎしおの返答に対し、黒い鶏がぽかんとしていた。


「はぁ? あんた何言ってんの?

 久々に会ったと思ったら随分な物言いじゃない」


「我に怪物の知り合いなどおらぬ、何か勘違いしておるのではないか?」


「怪物って……。あんた私のこと覚えてないわけ?」


「うむ、昔のことはほとんど覚えておらんからな。

 じゃが、お主のような気品のかけらも感じぬやからと知り合いなわけ無かろう」


嫌味ったらしい物言いにピキッとした黒い鶏だっだが、

深呼吸をして心を落ち着かせる。


もしかしたら、こいつの言う通り自分の勘違いかもしれない……

という考えが一瞬頭をよぎったが、その内から感じるわずかな気配から、

この鶏が探していた人物だということは間違いなかった。


相手の言ったことを信用するならば、記憶喪失……と判断するのが妥当だろう。

今の状況でこいつが他人のふりをする理由が分からなかったし、

何より少し話をした感じから、

本当に自分のことを覚えていないといった様子だった。


「そんなことよりお主、怪物のくせに言葉が喋れるのか?」


「色々言いたいことはあるけど、喋れるわよ。そんなの当たり前じゃない」


「なるほどのぅ、我も井の中のかわずだったということか」


唐突に意味不明な質問をしてきたと思ったら、

こちらに身体を向けてくる。


「……なら、我もやるべきことが決まったぞ」


今までとは違う気配を感じ取り、目の前の鶏を正面から見据えると、

その瞳には、闘志のようなものが燃えていた。

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