第217話 改過自新

「我が契約を結びし、懐中時計よ。

 己が修復者の命に従い、実界と異界の境界を開け……」


日が完全に落ち切った街の一角にあるの門に向かって一人呟く。

すると、程なくして傷有り紅二の扉が目の前に姿を現した。


今まで見た扉の中ではサイズ的に一番大きいものだったので、

顔を上げてまじまじと観察していると、後ろから声をかけられる。


「扉に入るつもりなら、我もついていくぞ」


後ろを振り向くと、ねぎしおがブロック塀の上にちょこんと座っており

こちらをじっと見つめていた。


「よく扉の場所がわかったな、ついさっき出たばかりだぞ」


「たまたま近くを散歩していたら、扉の気配?という奴を感じたのじゃ。

 我も日々成長していることを努々ゆめゆめ忘れるでないぞ」


最初は扉の場所なんて全くわかっていなかったはずのに、

今は修復者のように扉の出現を感知できるようになったということだろうか?


相変わらず、よくわからない奴だなと思う。


とりあえず、

この件は定期的に提出しているレポートへ記載しておくことに決めた火月は、

「流石だな」と適当に返事をしておいた。


「それにしても、今回の扉はやけに大きいのぅ。

 サイズによって難易度が変わったりせんのか?」


ねぎしおがブロック塀から降りてきたと思ったら、

こちらを見上げで質問をしてくる。


「扉の大きさは出現する場所によって異なるが、

 それが難易度に影響することはない。

 目安となるのはあくまでも紅水晶の数、そして傷があるかどうかだ」


「となると、今回もいつも通り危険がいっぱいってことじゃな」


それは扉に入ってみないと分からない……と言いたいところではあったが、

ここ最近火月が入っている傷有り紅二の扉はどれも苦労が絶えないものだったので、「まぁ、そういうことだ」と答えざるを得なかった。


「そういえば、記憶の方はどうなんだ?

 何か思い出したことがあれば言ってくれ」


「今のところまだ何も思い出せぬ、

 そもそもここ最近は扉に入ること自体、ほとんど無かったからのぅ」


自分は悪くないと言いたげな様子でねぎしおが火月を一瞥する。


「扉に入る機会が減って悪かったな、でももう大丈夫だ」


「それは、ファーストペンギンの仕事を再開するってことで良いのか?」


「別にファーストペンギンの仕事を休止していたつもりはない。

 ちょっと頻度が減ってただけだ」


「なら、心配は無用じゃな」


ねぎしおが肩に飛び乗ったのを確認した火月は、

そのまま扉の中へ足を踏み入れたのだった。

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