第214話 花言巧語

「それは、ここ数週間の会話内容について……ですよね?」


質問に質問で返す形になってしまったが、

これ以上隠し通せないと判断した火月は久城くじょう 伊紗いすずへ問いかける。


小さく頷き、こちらを見る彼女の表情は真剣そのものだった。


「不快な思いをさせてしまったのなら、すみません」


謝罪する火月に対し、彼女が大きく首を横に振る。


『いえ、誤らないで下さい。

 中道さんが私を気遣ってくれているのは凄く伝わってきました。

 ただ、その姿を見ているのがどうしても耐えられなくなってしまったんです。

 私も昔は似たようなことをしていたので……』


彼女が一生懸命メモ帳に文字をつづっている姿を、

ただ眺めることしかできなかった。


『以前、依頼させてもらった人物の捜索ついて、

 実は依頼自体をキャンセルしようと思っているんです』


文字を読み終えて彼女の方へ視線を送ると、諦めがついたような表情をしていた。


「諦めるにはまだ早いと思いますよ?」


『ありがとうございます。

 でも、これ以上中道さんや水樹さんに

 カウンセリングのようなことをやっていただくわけにはいきませんから』


確かにこの数週間、彼女と会話をする機会は何度もあったが、

その内容は異界や修復者に関するものを一切含んでいなかった。


それは、やはり彼女の容態が良くなかったからという理由もあったが、

思い出したくない記憶を無理やり呼び起こすことで、

彼女自身の心に大きな傷を与えかねないと思っていたからだ。


だから、この件に関しては水樹さんと協力して

時間をかけて対応していくことに決めていた。


ただ、その方針が逆に彼女自身を苦しめることになるとは思ってもいなかった。


『最後に中道さんの本心を教えてほしいです。

 水樹さんには私から依頼のキャンセルをしておくので安心してください』


ここまで言われたら、もう自分の正直な気持ちを伝えるしかないだろう。


ゆっくりと息を吐いた火月は、静かに口を開いたのだった。

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