第213話 洞察力

トイレを済ませ、休憩スペースへ向かうと、

既に久城くじょう 伊紗いすずが四人掛けのテーブル席に座っていた。


周りにはちょっとした飲食店がテナントとして入っているようで、

彼女が座っているテーブルの上には、たこ焼きのようなものが置いてあった。


他の席には、いくつかの家族連れが会話をしながら軽い食事を楽しんでいた。

おそらくお店でテイクアウトしてきたものなんだろう。


「すみません、お待たせしました」


たこ焼きをジッと見つめている彼女に声をかけると、

反対側の席へ荷物を置くと同時に腰を下ろす。


『全然大丈夫です。

 それより中道さん、何か勘違いしていませんか?』


彼女が手帳に書いた文字を見せて来る。

心なしか、先ほどよりも文字を書くスピードが速い気がした。


『私、別にトイレに行きたかったわけじゃないですから……』


伏し目がちにこちらを見る彼女の様子から、

自分が盛大な勘違いをしてしまったことに気づく。


「あー……、そうでしたか……」


完全にやらかしてしまったと、

二の句が継げないでいると再び彼女がペンを走らせる。


『休憩がてら、ここで少しお話をしたかっただけなんです』


「お話……ですか?」


最近は頻繁にアタルデセルへ通っており、

彼女とはそれなりに会話をしているつもりだったので、

わざわざここで話をする意味がわからなかった火月は少し困惑する。


もしかして、お店では話しにくいような内容なのだろうか……

と考えを巡らせていると、彼女が微笑を浮かべてこちらを見ていた。


『今なら中道さんの考えていることがなんとなくわかりますよ。

 どうしてわざわざ場所を変えて話をする必要があるのかってことですよね?』


完全にこちらの考えが読まれているので、こくりと頷くと彼女が話を続ける。


『別に深い意味はないですが、

 強いて言うなら中道さんの本音が聞きたいと思っただけです。

 ここなら水樹さんもいないですから』


彼女の真意がわからず、じっと目を見つめていると

メモ帳の次のページがめくられ、既に書いてあった内容が視界に入る。


『もう、上辺だけの会話は止めにしませんか?』

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