第202話 プレゼント

あの日をきっかけに、私たちは少しずつお互いのことを話すようになった。


クラス内での立ち位置は決して良いものとは言えなかったが、

それでも二人でなら乗り越えられるような気がしていた。


また、今まではずっとインドア派だった伊紗いすずは、

茜の誘いもあって以前よりも外に出て遊ぶようになった。


成川先生は、私が以前よりも明るい性格になったことを喜んでくれて、

茜ちゃんと私が一緒にいる姿を見かけては、

「二人とも本当に仲が良いんだね」と優しい眼差しで話しかけてくれた。


そんな何気ない日々を過ごしていたある日の夜、

部屋の中で茜ちゃんと話をしていると、

ふと何かを思い出したかのように彼女が立ち上がる。


「そうだ、伊紗に渡すものがあったの」


そう言い終えると、勉強机の方へ何かを取りに行ったので後ろ姿を眺める。

ガサゴソと音が聞こえたと思ったら、

小箱のようなものを片手にこちらに戻って来た。


「今日、伊紗の誕生日でしょ?

 だからこれ、私からのプレゼント」


まさか自分の誕生日を覚えている人がいるとは思っていなかったので

面食らってしまった。


驚いた様子の伊紗を見て茜が嬉しそうにしていた。


「茜ちゃん、ありがとう。

 でも私、今日が誕生日なんて一度も話してないよね?」


「そこは、私が気遣いのできる友達だからって言いたいところなんだけど、

 本当はサプライズでプレゼントを渡したいって理由で成川先生に相談したら、

 伊紗の誕生日を教えてくれたんだ」


「そっか、本当に嬉しいよ。

 サプライズって私初めてだから、上手く反応できなくてごめんね。

 ちなみに中を開けてもいい?」


「もちろん!

 でも、数ヶ月貯めたお小遣いで買ったものだから、

 あんまり中身は期待しないでね」


そう言って照れくさそうにしている茜ちゃんは、

普段あまり見ることがないので何だか新鮮だった。


包装紙を剥がして小箱の中身を開けると、

そこには黄色と白の線が入ったリボンが入っていた。


「わぁ、凄く可愛いね。これ茜ちゃんが選んでくれたの?」


「うん、伊紗の好みに合うかわからなかったんだけど

 気に入ってもらえたら嬉しいかな」


ちなみに……と彼女が付け加えると、

唐突にランドセルを引っ張り出してきたと思ったら、

その側面についている金具の部分に緑と白の線が入ったリボンが巻いてあった。


自分がもらったリボンと色違いだと直ぐに分かった伊紗は、茜の方を見る。


「私と色違いでお揃いのリボンなんだ。

 これをつけていれば、

 お互いが近くに居なくてもずっと一緒にいれるような気がするでしょ?

 私たちは本当の家族じゃないけどさ、それでも姉妹みたいなものだと思ってる。

 だから、もし伊紗がまだ周りの人と距離を感じちゃうことがあったら、

 このリボンを見て思い出して欲しい。

 伊紗は一人じゃないんだって」


自分のことを思って、

このプレゼントを選んでくれた茜ちゃんの気持ちが本当に嬉しかった。


だから、伊紗も直ぐに自分のランドセルへリボンを巻き付けると

「茜ちゃん、素敵なプレゼントをありがとう。大切にするね」

と飛び切りの笑顔で感謝の言葉を伝えたのだった。

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