第199話 人気者

内空閑うちくが あかねが施設にやってきて、一ヶ月が経過した。


私の予想通りと言うべきか、彼女は他の施設内の子達とあっという間に打ち解け、

今では低学年の子の面倒も見るほど頼りにされる存在となっていた。


また、学校生活においても持ち前の明るさと運動神経の良さが相まって、

クラス内での人気を集めていた。


私と彼女の関係性については、最初に会った時と何ら変わっていないと思う。


同じ部屋で生活するようになり、

何となくお互いのことを理解したつもりにはなっているが、

日常生活を送る上で必要最低限の会話をするのがいつもの流れだった。


たまに、彼女の方から今日はどんなことがあったかとか、

一日の出来事報告を一方的に聞かされることもあるが、

私は基本的に部屋で本を読んでいることが多いので、

どんな内容を彼女が話していたかまではほとんど覚えていない。


それでも一生懸命話しかけてくるので、

よく飽きずに続けるなぁと感心していたりする。


今日も勉強の時間が終わり、

就寝までの自由時間となったので部屋で本を読んでいると茜が話しかけてきた。


「もし良かったら、久城さんも一緒に外で遊ばない?

 明日の放課後、何人かで集まってドッチボールをやろうって話になったんだ」


私は自分の運動神経の悪さを自覚している。


そして、それは体育の授業でも遺憾なく発揮されているため、

クラスの人からも運動が苦手な人というイメージを持たれているのは

間違いないだろう。


そんな私に外で遊ぼうと誘ってくる子がいるはずもなく、

むしろそれを分かった上で誘っているのなら、笑えない冗談だなと思った。


ただ、彼女の目をジッと見ると、私を馬鹿にしているような雰囲気は一切なく、

純粋に誘ってくれているのだと直ぐに察した。


「誘ってくれてありがとう。

 でも、私運動苦手だし、他の子に迷惑かけちゃうからやめておこうかな」


手短に返事をすると、

「そっか……」とだけ小さく呟いた彼女は、

それ以上しつこく誘ってくることは無かった。

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