第197話 施設

私が他のクラスメイトと違う部分は何か?と問われれば、

「帰る家」と即答するだろう。


一般的な小学生なら両親が待つ家に帰るのが当たり前なのかもしれないが、

私の帰る場所は地元の児童養護施設だった。


そう、私は一般的な小学生ではなかった。


幼い頃に両親を事故で亡くしてからは、

親戚中をたらい回しにされた挙句、最終的に今の施設に預けられることになった。


色んな大人の本音を身近で見てきた結果、

私はなるべく人に迷惑をかけないような生き方をしようと強く思った。


なぜなら、我儘を言わない、手のかからない聞き分けの良い子……

それこそが周りの大人が私に求めた子供像だったからだ。


はたから見たら私は普通じゃない、可哀そうな子供として映るのだろう。

でも、施設での生活は私にとってそこまで苦しいものでは無かった。


食事の時間、勉強の時間、自由時間等、

共同生活を送る上で守るべきルールは確かに存在するが、

ある意味学校生活の延長戦みたいなものなので、

日頃から有難い義務教育を受けている私の敵ではない。


ただ、完全に一人になれる時間というのはほぼ皆無の為、

年齢が上がっていくにつれてプライベートの時間がほしくなったら、

周りの高校生のようにアルバイトを始めて、

なるべく外で時間を過ごすようになるのだろう。


少なくとも今の私には、

周りがどんなに五月蠅うるさくても一瞬で自分の世界に入り込むことができる

本という名のリーサルウェポンがあるので

そこまで気にする必要はないかもしれないけど……。


施設に帰ってくると、そのまま職員の人に挨拶をして自分の部屋に向かう。

部屋と言っても二人部屋だ。


そういえば、最近私と同じ部屋の子を目にしてないなとふと思い出したが、

そんなに仲が言い訳でもないし、

他人の事情に首をつっこむほど私もお人好しではない。


なので、しばらくはこの一人の時間を楽しめるうちに楽しんでおこうと思い、

ランドセルから本を取り出した。


読書を始めて一時間ほど経過した頃だろうか、

部屋のドアがノックされたので返事をすると、

職員の人から新しい子を紹介したいのでリビングに来て欲しいと言われた。


私の施設では結構人の出入りが激しいので、

どうせ自己紹介をしても意味がないのでは?と思い始めていたのだが、

リビングで待っていた人物を目にして思わず息を呑む。


それは、今日学校で初めて出会った、内空閑 茜其の人だった。

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