第196話 放課後

始業式が終わり、教室に戻ってくると

内空閑 茜の座席の周りには人だかりができていた。


皆転校生という存在に興味津々のようで様々な質問を投げかけていたが、

嫌な顔せずにハキハキと質問に答えている彼女を見て、

自分とは生きる世界が違う真逆のタイプの人間だなと思った。


予想外のイベントがあったものの、午前中はあっという間に過ぎていき、

気づいたらもう帰りの会が終わっていた。


職員会議があるとのことで先生が教室から出ていくと、

クラスメイト達は各々帰り支度を始める。


午前中で学校が終わりなので、午後から遊ぶ約束をしている子や

このまま校庭のグラウンドでサッカーをしようなどと提案している子がいたが

自分には関係のない話だった。


相変わらず転校生の周りには数人の女の子が集まっており、

一緒に帰る約束をしているようだ。


机の中にしまっておいた本をランドセルにしまうと、

そそくさと教室を出る。


別に早く家に帰りたかったわけではない。

ただ、何時までもあの空間にいても時間の無駄だと思ったのだ。


廊下に出ると他の生徒の姿が見えなかったので、

どうやら自分のクラスが一番早く解散となったようだ。


足早に昇降口へ向かうと、下駄箱から靴を取り出す。


本来なら混雑しているこの場所も、

今は誰もいないので何だか不思議な気分だった。


おそらく、全校生徒の中で最初に校舎を出たのは私で間違いないだろう。


運動も勉強も平均以下の自分が一番になれる機会なんて今後ないかもしれない。

なので、この一番の喜びを噛み締めながら帰ることに決めた。


雲一つない青空が自分を祝福しているかのように見えた。

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