第184話 愕然

大きな爆発音と激しい揺れを感じた久城伊紗くじょう いすずうつぶせの状態で目を覚ました。

意識が朦朧もうろうとする中で何とか頭を上げて周囲をゆっくりと見渡す。


『ここ、何処だっけ……?』


西洋館を彷彿とさせる内装に、

赤い絨毯が真っすぐ続いている空中回廊のちょうど真ん中付近で

自分が倒れていることに気づく。


やけにだだっ広いその回廊は所々激しく損傷しており、

つい先ほど傷がつけられたばかりのような印象を抱いた。


とにかく今は動かなければと思い、足に力を入れて立ち上がろうとするが、

全身に激しい痛みが走る。

少し動かしただけで身体の節々が悲鳴を上げているようだった。


自分の右腕を何気なく見ると、

衣服が破れ擦りむいた傷のようなものができており、

その右手には弓のようなものを強く握りしめていた。


次の瞬間、記憶が一気にフラッシュバックする。


『そうだ、扉の修復をするために異界に来てたんだ』


意識が覚醒した伊紗いすずはようやく自分の置かれている状況を理解した。


『確か、あかねちゃんと一緒にしゃちみたいな怪物と戦っていたはずなんだけど……』


そこから先の記憶を辿ろうとすると頭がズキズキと痛んだ。

気づかないうちに何処かでぶつけてしまったのかもしれない。


ただ、今自分がいる空中回廊には

怪物も茜ちゃんもいないことだけは間違いなかった。


『もしかして―――』


最悪のケースを想像した伊紗は、

再度全身に力を入れて立ち上がろうとするが、やはりビクともしなかった。


右手で握っていた弓が白く光り始めると、

浅葱あさぎ色の懐中時計へと姿を変える。


懐中時計の上部は小さいリングがついており、

そこには黄色と白の線が入ったリボンが巻いてあった。


『時間切れになっちゃった……』


これじゃあ、自分は戦力どころか茜ちゃんの足手まといになってしまうだろう。

ただでさえ満身創痍まんしんそういの状態なのに、

能力の時間切れによって更に全身を疲労感が襲う。


頭を上げ続けるのも苦しくなり、その場で廊下に平伏ひれふすことしかできなかった。


『どうか茜ちゃんが無事でありますように……』


彼女の無事を祈ることくらいしかできない自分が情けなく、

ただただ不甲斐なかった。


突如前方から扉が勢いよく開く音が聞こえる。

熱風を肌で感じた伊紗は

コツコツと誰からこちらに向かって歩いてきていることに気づいた。


足音は次第に近づき、

俯せで倒れている自分の近くまで来るとピタリと鳴り止む。


「茜ちゃん、また足手まといになっちゃってごめんね。

 私もう一歩も動けないみたい」


「……」


「今度はきっと上手くやれると思うの。

 だから、怒らないでくれると嬉しいなーなんて」


「……」


「やっぱり、怒ってる? 絶対怒ってるよね?」


茜ちゃんが終始無言なので、一体どんな顔をしているのかと思い、

やっとの思いで視線を上げた伊紗はする。


そこには赤茶色の短髪で黒いロングコートを全身にまとい、

右目を包帯で巻いている男が自分を見下ろしていた。

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