第183話 亀裂

「間一髪じゃったな」


粉々に砕け散ったシャンデリアの残骸を見ながらねぎしおが呟く。


揺れが収まらない状態での回避行動に苦戦した火月だったが、

何とかシャンデリアの下敷きにならずに済んだのでホッとする。


天井に大きい穴が空き、そこから満天の星が見えたと思ったら、

夜空に白い亀裂のような線が入っていることに気づく。


「どうやら、崩壊が始まっているようじゃな」


ねぎしおもこの異変に気付いている様子だった。


「ああ、おそらく先に入った修復者が怪物を始末してくれたんだろう。

 道理で怪物の気配を感じないわけだ」


「ということは、もう出口の扉は出現しているかもしれんの」


「そうなるな。

 既に修復者が実界に戻ってくれていればいいが、

 今は人の心配をしている場合じゃ無くなった。

 俺たちも早く扉を探さないと逃げ遅れることになる」


「満を持して扉に入ったのに、無駄死にするなんて滑稽じゃからな。

 ちなみに出口の出現場所はわかっておるのか?」


「通常なら、怪物を始末した場所の近くに出るはずだ」


「となると……」


「十中八九、炎上している別館付近だろうな」


「やはり、あそこには行かねばならぬのか……」


「逆に言えば、あそこまで行けばいいだけの話だ。

 俺としては怪物との戦闘が無いと分かっただけでも有難いがな」


「物は考えようってことかの」


正面の階段を駆け上がった火月は、

そのままに焦げ臭い匂いを頼りに空中回廊がある方角へ向かう。


火月達がいなくなった玄関ホールの扉が、強風に煽られて勢いよく閉まった。

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