第182話 ステンドグラス

門を潜り抜け、本館の正面玄関に到着した火月は

半開きになっている扉から中の様子を窺う。


他の修復者や怪物がいる気配を感じなかったので、そのまま中に入る。

そこには高さ十メートルはありそうな巨大な玄関ホールが広がっていた。


どうやら木造建築のようで、玄関の扉から真っすぐ赤い絨毯が伸びており、

その先には二階へと続く階段があった。


「これは……、見事なものじゃな」


脇に抱えていたねぎしおが声を漏らしたので、

視線の先を追った火月は思わず息を呑む。


正面の階段を上った先には踊り場があり、

そこから左右にそれぞれ階段が続いているのだが、

その踊り場の壁面に大きなステンドグラスが埋め込まれていたのだ。


ステンドグラスは二種類あるようで、一つは円形のものだった。

その円の中には小さい円が十二個円状に並んでおり、

中心には更に一つの円があった。


まるで花の形を模倣したかのようなそのステンドグラスの下には

縦長の長方形に半円を乗せた、

よくある窓のような扉のような形のステンドグラスが並んでいた。


そういえば、以前テレビで世界の遺産の紹介をしている番組があったが、

その時に見た大聖堂のステンドグラスに形が似ている気もする。


幅一メートル、高さ三メートルはありそうなステンドグラスから月の光が差し込み、ホール内は幻想的な明かりで満たされていた。


「ここで立ち止まっていても仕方がない、先を急ごう」


直ぐに階段へ向かおうとした火月だったが、

足元で「ジャリ」という何かを踏んだような音が聞こえたので立ち止まる。


よく絨毯を観察すると、

月の光が当たっている部分がキラキラと輝いているようだった。


「火月よ、真上を見るがよい」


ねぎしおの指示に従い視線を移すと、

そこには巨大なシャンデリアが吊り下がっていた。


どうやらガラス製のようで所々が破損していることから、

地面に落ちていたのがこのシャンデリアの欠片だと理解する。


かなり高い位置にあるにも関わらず破損しているということは、

それだけこのホール内での戦闘が激しいものだったのだろう。


広範囲の攻撃をする怪物なのかそれとも修復者なのか……、

真実は分からないが一つでも情報を得ることができたのは僥倖だった。


「足元は何が落ちてるから分からないから、このまま抱えていくぞ」


「そもそも、自分で歩く体力も残っておらんわ」


そうが返事をした次の瞬間、

地響きと共に大きな揺れが火月達を襲う。


何事かと思い、姿勢を低くして周囲を注意深く観察するが怪物の気配は感じない。


建物内がミシミシと悲鳴を上げ始めたと思ったら、

天井からと何かが落ちてくるような音が聞こえる。


再び火月が上を見上げるのと同タイミングで、

シャンデリアを支えていた天井の一部が破損し、自由落下を始めたのだった。

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