第178話 変色

ホームセンターで丸型の蛍光灯を無事入手した火月は

そのまま真っすぐ駅に向かおうとするが、

その足取りは次第にゆっくりとなり、

最終的には道の途中で立ち止まってしまった。


『念のため、確認しておくか……』


歩いてきた道を戻り始めた火月は、

お昼前に組織から届いたメールの内容を思い出す。


傷有り紅二の扉、

出現場所は先ほど立ち寄ったホームセンタ―の近くだったはずだ。


扉の出現から数時間以上経過しているため、

他の修復者が既に修復に向かっているかもしれないが、

それならそれで問題ない。


どうせ近くまで来たのだから、ついでに確認しておこうと思っただけだ。


……いや、本当はそうじゃない。

むしろ、扉の状態の確認のために、

このホームセンターの近くへ行く理由を自分でこしらえた

と言った方が正しい気がする。


ねぎしおの依頼という大義名分がなければ、

この扉の近くまで来れないなんて何とも情けない話だな

思う。


だが、ここまで来た以上

扉ともう一度向き合うことで何か得るものがあるはずだ。


修復者として、ファーストペンギンとして

これから自分がどうなっていきたいのか、

それは、他でもない自分自身が決めることだ。


懐中時計の案内に従い、

ホームセンターの裏手にある古民家へ到着した火月は周囲を見渡す。


築六十年以上は経過していそうな雰囲気を漂わせているその家は、

瓦屋根の上にトタンが乗せられていた。


おそらく、雨漏りを直そうとしたのだろう。

ほとんどが赤錆びで浸食されてるその様は、

まるで元の色を全て塗り替えようとしているようにも見える。


外壁は所々にひびが入っており、

表札には家主の名前が書かれていなかった。


長い間放置されている空き家であるのは明白で、

玄関の方から扉の気配を強く感じた火月は

静かに目を閉じる。


懐中時計に意識を集中させ、ゆっくりと目を開けると

古民家の玄関が、傷の入ったステンレス製の扉へ姿を変える。


四隅の水晶玉は上二つが蒼色に点灯しており、

既に二人の修復者が扉に入っていることを察した火月は

少しだけほっとする。


それは扉の修復が進んでいることへの安堵なのか、

それとも扉に入る必要が無くなったことからくる安堵なのかは自分でもわからない。


いずれにせよ、今ここで自分ができることは何もないと判断し、

踵を返そうとした次の瞬間、

視界の端に映っていた蒼色の水晶の内の一つが

紅色に変化したのだった。

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