第177話 雪道

いつもと同じ道でも昼間と夜で全く違う道に見えることがあるが、

それは雪が降り積もった後も同じことが言えると思う。


ほんの数センチの積雪とはいえ、

地面や屋根が真っ白に染まった町は

まるで自分の知らない世界なんじゃないかと思うほどだ。


雪国出身の人が聞いたら呆れられるかもしれないが、

そのくらいこの地域での積雪は珍しい。


寒空の下、そんなこと考えながら火月は一人駅に向かって歩みを進めていた。

現在の時刻は十四時過ぎ。


確か一時間前までは、

こんな寒い日にわざわざ外に出るなんて考えられないと思っていたにも関わらず、

現に今こうして外に出ることになってしまったのは何とも皮肉な話だ。


というのも、火月が外出することになった理由は主に二つあった。


一つは、リビングのシーリングライトの蛍光灯が切れてしまったからだ。

ストックを買い置きしていたつもりだったが、

何処を探しても丸型の蛍光灯を見つけることができなかった。


正直、自分の部屋さえライトがつけば問題ないので、

後日買いに行けばいいだろうと思っていたのだが、

ねぎしおがリビングの明かりがついていないと眠れないだのと

抗議の声を上げていたので、仕方なく買いに行くことになった……

というわけである。


二つ目の理由は単に今夜食べるものが無いため、

買い出しが必要になったからだ。


元々はカップ麺でも食べて適当にやり過ごそうとも思っていたのだが、

ストックしていたカップ麺は既にねぎしおが食べてしまっていた。


ねぎしお曰く、

「このカップ麺が我に食べて欲しそうに見えたから、

 仕方なく食べたのじゃ」

とのこと。


怒る気力もなかったので、

ついでに一週間分の買い出しを済ませてしまおうと思ったわけである。


確か二駅ほどいった場所の近くにホームセンターがあったはずなので、

まずはそこで丸型の蛍光灯を買うのが最優先だろう。

買い出しは、家に戻る途中でスーパーに立ち寄れば問題ないはずだ。


火月が外出することになった原因は、

全てねぎしおに起因するところではあったが、

組織から不自由ない生活をさせろとのお達しが来ている以上、

無下にすることもできない。


それにファーストペンギンの仕事をまだ復帰できていない今、

こいつのお世話から入って来る報酬が貴重であるのもまた事実。


今頃、リビングの炬燵でぬくぬくしているのだろうが、

変に外へ出たいと言われるよりかはマシだ。


薄っすらと積もった雪を踏みしめながら前を進む火月は、

何気なく空を見上げる。


薄灰色の空からと舞う雪は、まだ止みそうになかった。

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