第169話 助言

運よく要たちのテーブル席の真後ろの席を案内された火月は、

直ぐにメニューを開き顔を隠す。


要とは背中合わせになって座っているので、

反対側に座っている水樹さんに顔がバレる心配はないだろうが、

念には念をと思っての行動だ。


むしろ、対面に座る藤堂の方が顔を隠すべきではないかと思い、

急いで視線を向けると、既にサングラスを装着済みだった。


とりあえず、ホットコーヒーにパフェ、フライドポテトを注文すると

要たちの会話に聞き耳を立てる。


「いやー、さっきの映画怖かったね。

 まさか最後にあんな展開になるなんて思わなかったよ」


「自分も最後までドキドキしっぱなしだったっす!」


「そうだよね。

 それにしても要君の見たい映画がホラーだったとは思わなかったなぁ。

 私の勝手な偏見で申し訳ないんだけど、

 要君ってホラー映画よりアクション映画の方が好きそうなタイプに見えたからさ」


「それはそう……、

 いや、自分ホラーも大好きなんっす!」


要は嘘をつくのが得意ではない。

実際に、今回の映画のチョイスは自分の意志とは関係なく、

デートにピッタリかと思って選んだものだ。


故に水樹さんの指摘はもっともだったが、

そのまま正直に話してしまうわけにはいかないので、何とか取り繕う。


「そうだったんだ。

 やっぱり決めつけは良くないよね。

 他にも面白いホラー映画を知ってたら教えて欲しいな」


「了解っす! ちゃんと調べ……

 いや、次お会いした時に情報をまとめておくっす!」


「ありがとう。楽しみにしてるね」


その後も二人は他愛もない世間話を続け、

五分ほど経過したタイミングで

「ちょっとお手洗いに行ってくるね」と水樹さんが席を立った。



「要、大丈夫か?」

後ろを振り向き、要に声を掛ける。


「中道先輩、もう自分限界かもしれないっす……」

不安と緊張が入り混じったような表情をした要と目が合う。


「どうした?

 話を聞いている限り、問題なくデートできていると思うぞ」


「緊張で頭の中真っ白で、

 自分がどんな内容を話していたのか思い出せないっす……。

 それに何となく水樹さんに気を遣われている気がするっす」


「そんなことはないだろう。

 俺には十分楽しんでいるように見えたが」


「それはどうですかね、

 私は式島君の感じていることが真実だと思いますよ」

いつの間にか火月と要の座席の通路側に、サングラスを外した藤堂が立っていた。


「藤堂先輩、お久しぶりっす!

 でも、何で中道先輩と一緒に?」


「あまり深く詮索するな。

 成り行きで一緒になっただけだ」

火月が口早に答える。


「そうなんですよ。

 ちなみに、今回のデートの話は既に把握済みなので、

 私も微力ながら協力させてもらいますね」


「助かるっす! 

 それじゃあ早速で申し訳ないですが、

 何かアドバイスをもらってもいいっすか?」


「そうですね……。

 さっき、式島君が言っていたように、

 気を遣われているというのは概ね間違いないと思います。

 というのも、会話を聞いている限り

 話題を提供する側がいつも水樹さんなんですよね。

 つまり、式島君は完全に受け身の状態なんです。

 女の子は基本的に話を聞いてもらいたい生き物ですから、

 水樹さんに話をさせてあげるのが最優先かと。

 とにかく何でもいいので質問をこちらからする

 というのが手っ取り早いと思います。

 もちろん、質問をし過ぎると尋問みたいなってしまうので注意が必要ですが、

 会話の中で違和感のない話題や質問にシフトできれば、

 きっとお互い気を遣わずに接することができると思いますよ」


「確かに、ほとんど水樹さんに会話をつないでもらっていた気がするっす……」


「初めてのデートですから、何もかも完璧にできる人の方が少ないですよ。

 あまり落ち込まず、切り替えて行きましょう!」


「了解っす! まずは自分の出来る範囲で頑張ってみるっす!」


「それに、会話が駄目なら行動で相手に意識させればいいだけの話ですから……」

藤堂がボソッと呟く。


「行動っすか?」


「あー、今のはこっちの話です。

 とにかく会話を頑張ってみて下さい!」


そういって再度サングラスをかけ直すと、藤堂が足早に席へ戻っていった。


「中道先輩、藤堂先輩を誘ってくれてありがとうございます。

 凄く勉強になったっす」


「あ、ああ……」


藤堂のアドバイスは火月も聞いていたが、凄く参考になった。

やはり女性側の目線は女性にしか分からないということなのだろう。


この場は彼女に任せるのがベストだと判断した火月は、

先ほど届いたホットコーヒーを一口飲む。


ねぎしおはフライドポテトに夢中だった。

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