第168話 三者三様

ゲートのような場所に到着した火月達は、

その入り口から少し離れた場所に無数の鳩が集まっていることに気づいた。


近くにはベンチがあり、

そこに座っている初老の男性がパンを千切っては地面に投げている。


男性の手の動きと合わせるかのように

鳩が地面に頭を向け、パンをつついていた。


その中に、明らかに姿形の違う鳥が一匹紛れ込んでいる。


「あれってもしかして……」


「ああ、間違いない」


鳩と一緒になってパンをつついていたのは、ねぎしおに他ならなかった。


「中道さん、あの子にちゃんとご飯食べさせてあげてるんですか?」

藤堂が疑いの眼差しでこちらを見る。


「当然だ。鳥の餌とかじゃなくて俺が食ってるのと同じものを出してる。

 ちなみに今日の昼は唐揚げ弁当にサラダ、みそ汁だったぞ」


「ねぎピー、鶏肉食べるんですね……」と藤堂がポツリと呟く。


「とにかく早く連れ戻そう。

 こんなところで足止めを食らうわけにはいかないからな」



――――――


――――――――――――



「おい貴様、これは我が狙っていたパンくずじゃぞ! 

 横取りするでない!」


「お前、何やってるんだ?」

周りの鳩にプリプリと抗議の声を上げていたねぎしおに近づき、声を掛ける。


後ろを振り向いたねぎしおの嘴から、パンくずがポロリと落ちた。


「あー、火月か。

 これは、あれじゃな……、社会勉強ってヤツじゃ。

 べ、別に小腹が空いていたわけじゃな、ないからの!」


随分と動揺した様子の物言いだなと思ったが、事の真偽については後回しだ。


「要たちを追っていたんじゃなかったのか?」


「うむ、我の天才的なスキルによって要たちを完璧に尾行していたぞ。

 その勇姿、お主にも見せてやりたかったのぅ」


「俺が見たのは、お前がパンくずをつついている姿だけだ」


「まぁ、そう責めるでない。

 要たちのいる場所が分かったからこそ、ここでおやつタイム中だったのじゃ」


「やっぱり、このマーケットの何処かにいるの?」

藤堂が会話に入ってくる。


「最初は二人で出店を回っていたが、

 当初のデートプランには無かったイベントじゃからな。

 直ぐに本来の目的地へ向かったぞ」


ねぎしおがカフェのような場所へ視線を向ける。


「ついさっき、あの店の中に入っていったのじゃ。

 流石に我が店の中に入るのは得策ではないと思って、

 ここで待っていたというわけじゃ」


ねぎしおが自慢げに話し終える。


一心不乱にパンくずへ食らいつくあの姿を見せられて、

どの口が待っていたと言うんだ……と思ったが、

要たちの居場所が分かっているだけでも御の字だろう。


「それなら、直ぐカフェに向かおう。

 二人の会話から要の力になれそうな情報を集めるんだ」


「そうですね。なんだか探偵になったみたいで少しワクワクします!」


「カフェに行くなら、腹の足しになるものが食いたいぞ!」


各々の考えは、まるで一致していなかった。

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