第167話 マーケット

映画館を後にした火月達は、

十分程歩いてねぎしおの位置情報が示された場所へ辿り着く。


そこは、出店が軒を連ねる広場のような場所だった。


何かのお祭りでもやっているのかと思い、店に並んでいる商品を見ると

食べ物やお酒だけでなく、

クリスマスに関連しそうな小物を取り扱っているようだ。


所謂、クリスマスマーケットと呼ばれるイベントなんだろう。


この寒い時期にも関わらず、広場は多くの人で賑わっており、

特に男女のペアが多い気がした。


「こんなイベントやってたんですね!

 周りもほとんどカップル客みたいですし、私がいて良かったですね」


「……確かに、ここを男一人で散策するのは少しキツイかもしれないな」


「早速、お役に立てて何よりです」


再度スマホのGPSアプリを起動し、ねぎしおの位置情報を確認するが、

十分前からこの場所に留まっているのは間違いなさそうだ。


ただ、この人ごみの中からねぎしおを探し出すのは

なかなか骨が折れそうである。


「闇雲に探すよりは、ある程度当てを付けて動き始めたほうが賢明だな」


「というと?」


「ねぎしおの行動パターンは至ってシンプルだ。

 最初は要たちを追いかけていたのは間違いないだろう。

 でも、要たち以上に興味の惹かれるものがあったら、

 アイツは迷わずそっちを選ぶ」


「ねぎピーが惹かれるものって気になりますね」


「食い物だ。藤堂もポップコーンでねぎしおを買収してただろう?」


「あー、そういうことだったんですね。

 ポップコーンを買ったら、やけに興味津々な様子だったので、

 好物なのかと思っていましたが、単に食いしん坊だったってわけですか」


「そういうことだ。

 とにかく今はこのイベントの全体マップがわかる場所に移動しよう。

 飲食関係の出店の配置がわかれば、ある程度はアイツの行先を絞れるはずだ」


「わかりました。

 そういえば、さっき入口のゲートのようなものが見えたので、

 そこに行けば何か情報が得られるかもしれません」


藤堂が先頭を切って歩き始める。


今なら彼女の前から姿を消すのも簡単だなと思ったが、

後になって面倒事になるリスクの方が高そうだと判断した火月は、

急いで藤堂の後姿を追った。


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