第166話 直情径行
「―――さん」
「――――――中道さん!」
重たい
見慣れない景色に一瞬思考が追いつかなかったが、
自分が映画館に来ていたことを思い出す。
周りを見渡すと多くの人が席を立ち、出入り口の方へ向かっていた。
「今何時だ?」
「十五時です。ちなみに、映画はもう終わりましたよ」
と呆れた様子で藤堂が答える。
映画の開始時刻は確か十三時三十分だったので、
まるまる一時間半眠っていたことになる。
おそらく、昨晩からの疲労の影響だろう。
よりにもよって学生の頃の夢を見るとは思っていなかったので、
目覚めが最高とは言えなかった。
「そういえば、要たちは?」
「つい先ほど出入り口の方へ歩いていきましたよ。
でも、安心してください。
ねぎピーが後を追ってくれているので」
ねぎピーというのは、この場にいないねぎしおのことを言っているのだろうか……
あまり深く考えないようにしよう。
スマホを取り出し、GPSの追跡アプリを起動すると、
ねぎしおの現在地が表示される。
あいつの右足につけているリングがこんな形で役に立つとは
誰も予想していなかっただろうなと思いつつ、静かに席を立つ。
「起こしてくれたことには感謝する。
それじゃあ、俺は急ぐから」
そう言い残して歩き始めようとした火月だったが、直ぐに左腕を掴まれる。
「ここまで来て、まだ部外者扱いするんですか?」
藤堂が真っすぐこちらを見る。
どうやら引き下がるつもりはないようだ。
「別に無理に協力させろとは言いません。
でも、私も気分屋な人間なので、
帰っている途中で水樹さんに連絡しちゃうかもしれないですねー。
人の口に戸は立てられないっていいますし」
口元に笑みを浮かべながら藤堂が話を続ける。
「中道さんにデートを盗み見られていたなんて知ったら、
水樹さんショックだろうなー。
それに式島君もグルだってわかったら、彼の信用も地に落ちちゃいますね」
完全に今の状況を楽しんでいる彼女の指摘に何も言い返せなかった。
「何も難しく考える必要はありませんよ。
私が協力を申し出て、中道さんがそれを快諾する……
非常にシンプルなやり取りだと思いませんか?」
協力という言葉ではなく、恐喝と言われた方がしっくりくるなと思った火月は
「……わかった」と不承不承ながら返事をする。
「ありがとうございます。
少しでもお役に立てるよう頑張りますね!」
その眩しい笑顔の裏に隠された本性を
一体どれだけの人が知っているのかは知らないが、
少なくとも北大路には教えてやることに決めた。
何せ、人の口に戸は立てられないからな。
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