第170話 画策

水樹さんが席に戻って来てからは、

要も自分から質問をしようと努力していたが、

一朝一夕に話術が向上するはずもなく、

結局彼女が会話の主導権を握ったままだった。


程なくしてカフェを出ることになったようで、

二人が席を立つ。


何となく要の後ろ姿を眺めると、少し肩を落としているように見えた。


「やっぱり、水樹さんの方が一枚上手いちまいうわてですね」

藤堂がパフェを食べながら、話しかけてくる。


「そりゃあ、そうだろう。

 デート相手が水樹さんだと最初から分かっていれば、

 今日のデートを止めていたさ」


「ですね、私も負け戦はしない主義なので止めたと思います。

 でも、式島君はきっと諦めないんでしょうけど」


「ああ……、あいつはとにかく真っすぐな奴だからな。

 でも、要もあんな風に落ち込むことがあるんだな」


「式島君だって、好きな人の前じゃカッコつけたいと思うんじゃないですか?

 それが今全くと言っていいほど上手くいってないわけですから、

 落ち込むのも無理ないかと。

 それは同性である中道さんの方が分かってあげられるものだと思いますけど」


「……それもそうだな」


空になったパフェの容器の中にスプーンを置いた藤堂が、

紙ナプキンで口元を軽く拭く。


「でも、このまま式島君が負けっぱなしってのも面白くないですね」


「……変なことを考えてるんじゃないだろうな」

じろりと藤堂を一瞥する。


「まさか、変なことなんて考えていませんよ。

 ただ私は彼の力になりたいだけです。

 だから、中道さんも協力してくださいね」


「元よりそのつもりだ」


「ありがとうございます。

 時に中道さん、デートにとって一番大事なことって何だと思います?」


「そうだな……。

 やっぱり相手を楽しませるために綿密に練られたデートプランじゃないか?」


「それは大前提の話ですよ。

 私はデートで一番大事なのはサプライズだと思うんです」


「サプライズ? プレゼントでも用意しろってことか?」


「それも悪くないですが、今からプレゼントを用意するのは難しいでしょうね。

 事前に相手の欲しい物とかをリサーチする必要がありますから」


「それじゃあ、次のデートの時に用意すればいいんじゃないか」


藤堂が首を横に振る。


「何もプレゼントだけがサプライズじゃありませんよ?

 例えば、そうですね……デートの途中で起きる予想外のハプニングも、

 ある意味サプライズになりませんか?」


そう言い放った藤堂の表情は、

今日見た中で一番活き活きとしていたのは言うまでもない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る