間章 FPM~ファースト ペンギン ミッション~

第147話 イルミネーション

苦手な季節は何か?と聞かれたら、

『冬』と即答するほど寒さが苦手な中道 火月にとって

辛い時期がやってきた。


現在の時刻はちょうど十九時を過ぎたところで、

オフィスのビルのエントランスホールを抜けると冷たい風が全身を襲う。


思わず首をすくめた火月は今日が今年一番の寒さになると、

今朝のラジオで言っていたことを思い出した。


鞄にしまってあったマフラーを取り出し、手早く首に巻く。

まだ十二月に入ったばかりでこの寒さだと、

冬本番の一月、二月の気温はどうなってしまうのだろうと

少し気が重くなった。


コートのポケットに両手を突っ込んで駅までの道を歩き始める。


普段ならもっと暗いはずの道も、今月から少し明るさを増していた。

というのも理由は明白で、街路樹に電飾がほどこしてあったからだ。

所謂、イルミネーションというやつである。


毎年、この季節になると必ずイルミネーションが話題に上がるが、

何故今の時期にやるのかはよくわかっていなかった。


空気が澄んで綺麗に見えるからという理由を聞いたことはあるが、

正直そんなに見え方が変わっているようには思えなかったし、

何より寒いのが苦手な火月にとって、

わざわざ夜に外へ出るなんて考えられなかった。


以前、北大路にその話をしたら、

「お前、イルミネーションに嫌な思い出でもあるのか?」

と心底心配そうな顔をされたのを思い出す。


結局、あれから北大路の意識はまだ戻っていない。

週に一度は病院に行って様子を確認しているが、

医者もお手上げのようで成り行きを見守るしかないとのこと。


いつ意識が戻ってもおかしくない状態らしいのだが、

逆にいつまで待てばいいのかという漠然とした不安もある。


とはいってもこの件については考えても仕方が無い。

退職日直前まで働きづめだったから、

きっと長い休暇を取れということなのだろう。


色々と話したいことはあったが、

四方山話よもやまばなしに花を咲かせるのは、

北大路の意識が戻ってからでも遅くはないはずだ。


イルミネーションの道を抜け駅の改札口が見えてくると、

再び冷たい風が吹き抜ける。


冬本番はこれからだぞと言っているかのように感じた火月は、

今日手袋を買って帰ることに決めた。

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