第148話 来客

自宅の前に着いたので鞄から部屋の鍵を探していると、

ふとあることに気づく。


『やけに騒がしいな』


どうやら、部屋の中で誰かが喋っているようだ。

扉越しでもわかるくらいなので、それなりの声量だろう。


といっても部屋にはねぎしおしかいないので、

あいつが一人で喋っているとは思えなかった……

いや、喋ってる可能性もあるか……変な奴だし。


実を言うと、この声の主には大方の予想がついていた。

ずばり、テレビの音である。


というのも、ねぎしおは無類のテレビ好きなのだ。

一緒に暮らし始めた頃は、とにかくテレビに興味津々で、

会社に行って帰ってくるまで

ずっとリビングのテレビの前に居座っていたことがあった。


今でこそ、多少テレビを見る時間が減ってきたものの、

まだテレビへの興味は続いているものと思われる。


ちなみに、ねぎしおの好きな番組は料理番組で

毎日家に帰るたびに、あれが食いたいだの

自分の知り得た情報を熱心に伝えてくる。


右から左に聞き流して適当に返事をすると、

プリプリ怒り始めるのがまた厄介なところだった。


なので、料理の話になったら、

「また今度な」といつものフレーズを口にして、

おつまみ用の燻製チーズを問答無用で差し出すことにした。


チーズを食っていれば、いつの間にか料理の話題のことは忘れているので、

流石鳥頭だ……と感心したのは言うまでもない。


何にせよ、今日はテレビのボリュームが大きすぎるので、

そこは注意しなければならない。


部屋の鍵を開けて中に入ると一直線でリビングに向かう。

リビングと廊下を隔てるドアを開けると、

床に座っているねぎしおが視界に映る。


「テレビを見るのは構わないが、ボリュームが大きすぎるぞ。

 ご近所迷惑にもなるんだから気をつけてくれ」


そう言い終わると同時に、リビングのテレビがついていないことに気づく。

よく見るとねぎしおが座っている場所はテレビに対して正面では無く、

真横の位置だった。


「中道先輩、お邪魔してるっす!」


ねぎしおと対面するように座っていた一人の男が声をかけてくる。

それは以前一緒に扉を修復した式島 要その人だった。

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