第5章 another side

第146話 うねり

出口の扉を潜り、崩壊の始まった異界から火月が姿を消して数分が経った頃……

出口とは別に新たな扉が忽然と出現する。


中から人影のようなものがゆっくりと異界に足を踏み入れると、

ぐるりと周りを見渡した。


「どうやら、もう終わっちまったみたいだなぁ」


右目を包帯で巻いた男が一人呟く。


その風貌は何かのスポーツ選手を彷彿とさせるような

筋肉質な身体つきをしており、黒いロングコートを全身にまとっていた。


年齢は火月より少し上だろうか。

赤茶色の短い髪に、好戦的な目つきが印象的だった。


「そうね。怪物の気配も感じないし、

 他の誰かが先に修復したんじゃないのかしら」


男の足元に小さい生き物がちょこちょこと近づいて来る。

その姿はまさにと瓜二つの鶏だった。


何か違う点があるとすれば、

身体の色が真っ黒な点くらいだろう。


「ったく、使えねぇ鶏だなぁ。

 何のためにお前を連れてきたと思ってるんだ」


「そんなの知らないわよ。

 扉の案内ができる私でも、

 修復が終わっているかどうかまではわからないわ」

とぶっきらぼうに鶏が答える。


「やっぱり怪物と仲良くするなんて俺にはできねぇな。

 ここで始末しちまうか」


男の鋭い眼光が鶏を捉える。


「まぁ、でもあいつの気配は僅かに感じるわ。

 この異界には来ていなかったみたいだけど、

 さっきまでここにいた修復者と何らかの関係はありそうね」


「はっ、それを先に言え。

 ようやく手がかりらしい手がかりが見つかったじゃねぇか。

 まだお前にも利用価値があるみたいだな」


からからと男が笑う姿を横目に、黒い鶏が小さく溜息をついたのだった。

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