第140話 熾烈

怪物の根元まで到着した火月は、

そのまま節の部分を土台に上へ登っていく。


すると、地面が大きく揺れて地中から複数の根が姿を現し、

蕾へ近づこうとする火月を捉えようと迫って来た。


『こいつ、根っこも自在に操れるのか』


ここまで来て、今まで見たことがない攻撃パターンに驚く。

だが、普段通りの動きができるようになった火月にとって、

攻撃を避けるのは造作もないことだった。


回避とジャンプを使い分け螺旋状にどんどん茎を登っていき、

蕾の目の前まで到達する。


前回同様に、蕾が突然開いて花粉を飛ばしてくるリスクは当然あったが、

能力の残り時間を考慮した結果、なりふり構っていられなかった。


腰の短剣を一気に引き抜くと、花托の部分を目掛けて思いっきり振り切る。


『……っ! 思った以上に硬い!』


得物が振り切れず、

刃がちょうど花托の中心付近まで来たところで、勢いが無くなっていくのを感じた。


『このままだと、蕾を完全に切り落とせない』


短剣を抜いて、もう一度振り直す余裕はなかった。

下からは根が迫ってきている。

時計の能力の制限時間は残り十秒を切っていた。


「うおおおおおおお!」


左手を右手に重ね、両手で短剣を強く握りしめた火月は、

そのまま蕾を切り落とそうと全身の力を使って腕を振り払った。



――――――


―――――――――



確かな手ごたえを感じた火月は、そのまま下へ落ちていく。

時計の能力の時間切れにより、身体中を一気に倦怠感が襲ってくる。


怪物の方へ視線を向けると、

先ほど切り落とした蕾が落下していくのが見えた。


『……何とかなったみたいだな』


自分一人で怪物を始末できたことに安堵する火月だったが、

ふと怪物に異変が起きていることに気づく。


それは切り落とされた蕾が、白い光と共に消滅しかけているのにも関わらず、

その花を開いて一粒の種子のようなものを吐き出していたのだった。


『まさか……』


最悪のシナリオが頭を過る。


最初の怪物を倒した後に今の怪物の存在に気づけなかったのは、

これが原因か。


死の間際に自分の分身を種子として残していたのなら、


再度地中に潜って急成長したら、もう打つ手は無いだろう。


『ここで、仕留め損ねるわけにはいかないんだよ!』


歯を食いしばりながら空中で身体を捻った火月は、

そのまま右手の短剣を種子に向けて勢いよく投げ飛ばすが、

「ガキン」と鈍い音が響き渡る。


短剣が種子を貫通すれば良かったのだが、

虚しくも外殻に弾かれてしまった。


種子の状態を確認するが、

どうやら、少し傷が出来た程度のダメージしか与えられていないようだ。


それにしても、短時間でこんなにも強度が上がっているものなのだろうか。

もしかしたら生まれ変わるたびに、

こちらの攻撃に対する耐性がついてきているのかもしれない。


傷が出来た種子の外殻が大きく裂け、

一本の枝が火月を目掛けて勢いよく伸びてくる。


もう能力は切れ、得物は手元にない……、

やれるだけのことは全部やった。


薄れゆく意識の中、重力に身を任せ下へ落ちていく。

程なくして、怪物の枝が一人の修復者の腹部を貫通したのだった。



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