第139話 流儀

今度は火月を目掛けて無数の枝が迫りくる。


いくら自分の攻撃が通る相手だとは言え、

元田さんのように全ての枝を切り落とすのはまず無理だ。


切り落とせたとしても、せいぜい全体の半分くらいだろう。

自分の力量は自分が一番よく分かっている。


だから、ここで自分が怪物を倒すために取るべき行動はもう決まっていた。


向かってくる枝を注視しつつ、怪物との距離を詰める。

数本の枝が足元を狙ってきたので、ジャンプして何とか回避する。


もちろん、枝を切り落としているわけではないので、

枝の絶対数は減らない。


つまり、一度回避した攻撃は後ろから再び火月を狙ってくることになる。

当然、前からも別の枝が迫ってくるわけで。


これ以上先に進めないと判断した火月はその場で静止する。

一本一本の枝の気配を感じ取るために、身体中に全神経を張り巡らせた。


前後左右から二十本以上の枝が攻撃を仕掛けてきたが、

全ての攻撃をすんでのところで回避する。


能力を発動している火月だからこそできる芸当ではあったが、

かなりの集中力を要するため、何度も避け続けるのは難しいだろう。


一度目の一斉攻撃が終わると、今度は方向を変えて再び枝が火月を狙ってきた。

ひと息つく暇もなく二度目の攻撃も何とか回避に成功したが、

体力もかなり限界に近づいている。


しかし、怪物は攻撃の手を休めるつもりはないようで、

三度目の一斉攻撃を仕掛けてきた。


『流石にこれ以上避けるのは、難しいか……』


額から汗が流れ落ち、肩で息をし始めた火月は腰の短剣に手を伸ばす。

迫りくる枝を切り落とそうとした次の瞬間、目の前で枝の動きがピタっと止まった。

それも一本の枝だけでなく、全ての枝が静止している。


『ぎりぎり間に合ったみたいだな』


額の汗を腕で拭った火月は、呼吸を整えながらを凝視する。

そこには無数の枝が絡み合い、大きな結び目のようなものができていた。


火月が回避に専念していたのは、この状況を作り出したかったからだ。

あらゆる方向から攻撃が来るのなら、その攻撃が来る方向を誘導することで、

枝同士を絡ませることができると思ったのだ。


現に先ほどまで縦横無尽に動き回っていた枝は大きな結び目ができると、

そのまま地面にまとめて落下し、身動きが取れない状態になっていた。


能力の制限時間が残り一分を切る。

どうやら、回避に時間を使いすぎたようだ。


ようやく本調子に戻り始めた火月は

怪物の蕾を切り落とすために、脇目も振らず駆け出した。

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