第136話 種子

突然、隣を歩いていた元田さんが火月を真横に突き飛ばす。

一瞬何が起きたのか理解できなかった火月は、そのまま地面に転倒した。


その直後、勢いよく後ろを振り向いた元田さんは得物を構え、

防御の姿勢を取った。


何重にも重なり合った太い枝が一本の大きなドリルになって、

盾に直撃すると激しい衝突音が響き渡る。


『一体、何が起きた?』


突然起こった今の状況に頭の理解が追いついていない火月だったが、

まず目の前で起きている事象を整理する。


『ドリルのような枝……、見間違うはずがない。

 あの怪物の攻撃だ。もしかして、倒し切れていなかったのか?』


さっきまで怪物と戦っていた場所を一瞥した火月は、

確かにそこに怪物の姿が無いことを確認する。


花を落した時に消失は始まっていた。

だから、あの怪物は間違いなく始末したはずだ。


なら、今のこの攻撃は……。


「火月君! 手荒な真似をしてしまってすまない!」

盾で攻撃を防ぎながら、元田さんが声を掛けてきた。


「問題ないです。それより……」


「うん、どうやら怪物はもう一体いたみたいだね。

 でも、全然気配に気づけなかったよ。不意打ちだったから、

 盾で防げないことも考慮して、突き飛ばした方が安全だと思ったんだ」


あの一瞬でそこまで考えて行動したのか……と素直に感心していると、

元田さんが枝の攻撃を完全に防ぎきる。


若干後ろに押され気味ではあったが、

それでもやはり彼の防御力の方が上ということなのだろう。


ドリルのような枝を押し返すと、その枝が伸びてきている元が視界に映る。

そこには、焦げ茶色の大きなラグビーボールを彷彿とさせる塊があった。


全ての枝がその塊から伸びていることから、ある可能性が浮かび上がる。

もしかして、あれは種子なのだろうか。


怪物が死に際に放ったものなら、気配に気づけなかったのも納得できる。


「元田さん! あれが本体です!」


「そのようだね。後は僕が始末するから、火月君はそこで休んでいてくれ」


種子を目掛けて元田さんが走り始める。

怪物は一本のドリル状態を解除すると、そのまま地中に潜るような動きをとった。


程なくして地面が揺れ始め、地中から勢いよく茎が伸びたと思ったら、

一気に大きな花へと姿を変える。


最初に戦った時よりもサイズは二回りほど小さいものではあったが、

その急成長具合は目を見張るものだった。


ヤマタノオロチのように枝を分離させた怪物は、

迫りくる元田さんを迎え撃とうとしていた。

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