第137話 時宜

無数の枝が礼一を目掛けて伸びてくるが、一本一本を確実に切り落としていく。


最初に戦った時と何ら変わらない攻撃パターンだったので、

対処するのは容易だった。


下から上へ上から下へ、時には右から左へ左から右へ得物を振り払うその様は

風車かざぐるまを想起させる。


それにしても、もう一体怪物が残っているとは思っていなかった。

いや、あの種子のような形状を見る限り、

もう一体残っていたというよりはあの怪物が生み出した……

といった方がしっくりくる。


何にせよ、自分の油断が招いた結果なのは間違いない。

流石、傷有り紅二の扉といったところか。


今度は怪物が完全に消失するまで見届けようと決めた礼一は、

頭上から振り下ろされる枝を切り落とすと、そのまま直進する。


枝の本数も残り一本となり、怪物が真横から凪払い攻撃を仕掛けてきた。


『何度やっても同じことだ』


そう思い、いつものように得物を構えて迎え撃とうとした礼一だったが、

突如


『……っ!』


腕が全く上がらない。

正確に言うなら、まるで麻痺したかのように身体がビクとも動かないのだ。


『さっきまで、問題なく動いていたのに、今更どうして……』


一瞬の思考と共に、ある結論に辿り着く。

それは、最初の怪物が放った花粉の攻撃である。


あの花粉はほとんど火月が正面で受けていたが、

その下には礼一がいた。


つまり、直撃はしてなくても微量の花粉を被っていた可能性は十分あり得る。

その花粉が今になって身体に影響を与え始めたとしても何ら可笑しな話ではない。


『よりによって、このタイミングか』


礼一にとっては最悪の、怪物にとっては最高のタイミングである。


怪物の枝を切り落とすことが難しくなり、

防御の構えも取れない状況におちいった礼一は、

すべもなく怪物の凪払い攻撃を受けると、勢いよく後方に吹き飛ばされる。


火月と一緒に向かおうとしていた巨木に頭から衝突し、

そのまま地面に落下する。


目の前の景色が一瞬で真っ暗になった。

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