第135話 落花

大きな花が地面に落ちると、程なくして怪物の消失が始まった。


地面に横たわっている火月の傍まで近づいた礼一は

「大丈夫かい?」と声をかける。


「頭から落ちるのだけは避けたので、大丈夫です」

と何事もなかったかのように火月が答えていたが、

何とか上半身を起こしている様子から、まだ花粉の影響が残っているのだろう。


「さっきはありがとうございました。

 元田さんが花粉の攻撃について注意してくれなかったら、

 完全に意識を失っていたと思うので」


「そんなことはないさ。

 だって火月君、君はあの攻撃が来ることをわかっていたんじゃないのかい?」


礼一が火月へ注意を促した時、

左腕を口元に移動させる動作があまりにもスムーズだったので、

自分に言われる前にそうしようと考えていたとしか思えなかった。


火月の目をジッと見ると、観念した様子でうっすらと笑う。


「バレてましたか……。すみません、元田さんを騙すつもりはなかったんですが」


「いや、騙されたなんて思ってはいないさ。

 きっと、君が伝えるべき情報じゃないと判断して

 僕に言わなかっただけの話だろう?」


「そう思って頂けたのなら幸いです。

 元田さんのご指摘通り、

 怪物があの攻撃をしてくる可能性は高いと思っていました。

 というのも、過去に似たような種類の怪物と戦った時に、

 花粉のような攻撃を受けたことがあったからです。

 ただ、あくまでも可能性が高いだけの話であって確証はありません。

 なので、そんなあやふやな情報をお伝えする必要はないと考えました。

 それに、身体にどんな影響があるかわからない以上、

 元田さんにリスクを背負わせるわけにはいきません。

 だから、自分で検証した方がベストだと思い、突っ込んでしまいました。

 流石に意識が飛びそうになるほどの影響があるとは思っていませんでしたが、

 結果的に元田さんが止めを刺してくれたので、本当に助かりました」


そう話す火月は、一歩でも間違えれば自分の命が危なかったのにも関わらず、

何処か淡々とした様子だった。


それは礼一の能力を把握した上で、勝算があると判断しての行動だったのか、

それとも……。


いや、あまり深く考えるのはやめておこう。

今は怪物を始末できたという成果が得られただけで十分だ。


「良い意味で火月君の印象が変わったよ。今回は、協力してくれてありがとう」


礼一が中腰になって手を伸ばすと、火月が手を取って立ち上がる。


「お陰様でだいぶ良くなりました。花粉の効果時間は短いようですね」


「それは良かった。でも無理は良くないよ。

 出口の扉が出現するまでは、あの木の下で休憩しようか」


火月が頷くのを確認すると、静かに佇む巨木がある方へ歩き始めたのだった。

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