第133話 焦思

下の方から元田さんの指示が聞こえた火月は、

左腕で口を隠すと同時に息を止める。


最初の一撃でとどめを刺せなかったのは自分のミスなので、

何とか挽回しようと再び攻撃を仕掛けるつもりだったのだが、

怪物に先手を打たれてしまった。


火月自身、

この花粉のような広範囲攻撃を至近距離で避けるのは難しいだろうなと思っていた。


ただ、身体にどんな影響が出るかわからない以上、

なるべく吸い込む量を最小限に抑えたいところではあった。


また、皮膚へ花粉が付着する量も減らしたかったので、

目を細めて身体を丸めるような体勢をとるが、

そのあまりにも強烈な匂いに顔をしかめる。


例えるなら、腐った肉のような匂い……とでも表現するのが適切だろうか。

とにかく、直ぐにこの花から離れたいと思うほどの臭気で、

次第に頭の中がくらくらしてくる。


急いで口を塞いだとは言え花粉を全身に被ったのだから、

多少身体に異変が起きてもおかしくはないのだが、

効果が現れるのがあまりにも早すぎる。


朦朧とした意識の中、怪物への追撃が難しいと判断した火月は

短剣を腰のホルダーにしまうと、そのまま落下していく。


すると、今度は怪物が仕返しだと言わんばかりに

再生した二十本以上の枝で火月に攻撃を仕掛ける。


今までは一本一本が各々に伸びてきていたのに対し、

今回の攻撃は全ての枝が同じスピードで同じように伸びてきていた。


途中、枝同士が螺旋状に絡み合うと

巨大なドリルのようなものへと変貌を遂げる。


その勢いは、今までの攻撃とは比べ物にならないものであるのは

誰が見ても明らかだった。


かすむ視界の先に怪物の巨大なドリルを捉えた火月は、

自分の軽率な行動に後悔する。


追撃しようと思わずに一度引いて作戦を考え直していれば、

こんな状況にはならなかったはずだ。


急いては事を仕損じる、事前に何度も確認したのに

この結果では元田さんに申し訳が立たない。


せめて一人でも生き残ってくれれば……と思う。


怪物の攻撃が火月の身体をつらぬこうと目前に迫ってくる。

頭上に咲く巨大な花は、何処か笑っているように見えた。

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