第132話 花粉

火月の短剣が蕾に突き刺さる瞬間を確認しようと、

下から見上げる形で静観していた礼一は、

何とも言えない違和感のようなものを感じていた。


今回初めて傷あり紅二の扉に入ったが、

こんなにも手応えのないものなのだろうか……。


正直に言ってしまえば、自分が想像していたよりも遥かに怪物が弱いと感じた。


もちろん、火月の事前情報があったからこそ、

ここまでスムーズに事が進んだのは間違いない。


それに誰かと共闘するのも初めてだったので、

そのおかげで簡単に感じただけなのかもしれないが。


そんなことを考えながら蕾を観察していると、

火月の短剣が突き刺さるのと同じタイミングで蕾に変化が起きる。


まるでタイミングを見計らっていたかのように、突然花が開く。

次の瞬間、怪物の強い気配を感じると、全身に緊張が走った。


『……っ!』


得物を構え、全神経を集中させる。

やはりまだ怪物は本気を出していなかったらしい。


火月の短剣は、花の一部分を切り裂いているように見えたが、

致命傷になるほどのダメージを与えたとは思えなかった。


まさか、花が開くとは火月自身も予想していなかったようで、

少し体勢を崩している様子だったが、

何とか節の部分に着地すると再び攻撃を仕掛けようとジャンプする姿が見える。


怪物の気配が強くなったのは彼も理解しているはずだ。

それでも尚、攻め続けるということは、

何かが起きる前に怪物を始末する方が良いと判断したのだろう。


火月のサポートに入るため、

同じように節を土台にしてジャンプ移動を始めた礼一は、

大輪の花を咲かせた怪物が、

迫りくる火月に向かって黄色い粉のようなものを噴射していることに気づく。


「火月君! その粉を吸っちゃだめだ!」


ほぼ無茶振りに近い要望ではあったが、

あの花粉のようなものが危険だと咄嗟に判断した礼一は、声を張り上げたのだった。

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