第128話 一蓮托生

怪物との距離を縮めるため、元田さんを先頭に真っすぐ突き進む。

ちょうど半分くらいの距離まで来たところで怪物に動きがあった。


茎から伸びた大量の枝が葉を揺らし始めたと思ったら、

つるのようにしなりながらこちらへ向かってくる。

ざっと確認しただけでも十本以上はあるだろう。


「攻撃が来ます!」


「どうやらそのようだね」

そう答えた元田さんは走るのを止めて、その場で得物を構える。


それぞれの枝が一様に同じスピードで伸びてきている訳ではないので、

全枝の攻撃を防ぎ切るのは至難の業だろう。


例えるなら、複数の大蛇が一気に迫っているような感覚……

植物版ヤマタノオロチとでもいえばイメージし易いだろうか。


十本以上ある枝は、完全に狙いを元田さんに絞ったようだ。

中段の構えをとって静かに佇む彼を目掛けて伸びていく。


流石にこの攻撃を防げるか一瞬不安に思った火月だったが、直ぐに考えを改める。


『作戦通りにいくなら、ここは元田さんに任せるべきだ』


まだ知り合って日が浅いのに、

もうお互いを信じられるほどの関係が構築できた……というわけではない。


確かに、話をしていく中で共通点はいくつか見つかったし、

考え方も似ている部分が多かったのは事実だ。


きっと他の人だったら、もう少し警戒していただろう。

それこそ今回の依頼を受けていなかったかもしれない。


だが、元田さんが何を考えているかなんて誰にも分かるわけがない。

それはきっと火月の考えていることが誰にも分からないのと同じことだ。


お互い長く一緒にいればいるほど、相手の事を理解した気になりがちだ。

家族、恋人、兄弟、姉妹等、距離が近ければ近いほど、

自分は相手のことを一番理解していると勘違いする。


時間の長さが必ずしも相手の理解度を深め、信頼関係を構築するとは限らない。

逆に言えば、短い時間でも相手を信用できるケースもある。


例えばそう、お互いの利害関係が一致した時とか。


少なくとも今回、

元田さんと火月は修復者として扉を修復するという共通の目的を持っている。


それが例え一時的な契約だったとしても、

何の根拠もない友情とか絆なんてものよりも遥かに信用に値するものなのは

間違いないだろう。


だから今この瞬間において、元田さんを信じることができる。


とはいっても一緒に異界に来た時点で一蓮托生の関係なので、

信用せざるを得ない状況とも言えるかもしれないが……。


何にせよ、彼には彼の自分には自分の役割がある。

今はやるべきことをやるだけだ。


静止した元田さんの真横を通り過ぎた火月は、

走るスピードを落さずにそのまま怪物の方へ向かっていった。

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