第127話 花

「火月君、あれが例の怪物かい?」


巨木の後ろに身を潜め、

約五十メートル前方をジッと見つめていた元田さんが話しかけてくる。


元田さんの視線の先を追うと、

そこには巨大な花を連想させる植物が植わっていた。


高さ4メートル、幅2メートルといったところか。

見たところ、細長い蕾のようなものが真っすぐ空へ向かって伸びており、

開花するのを今か今かと待っているような印象を受ける。


「ええ、間違いないです」


声を潜めて返事をした火月は、再度注意深く怪物を観察する。

やはり、周りの植物は怪物を中心として円を描くように全て枯れていた。


「一つ確認しておきたいんだけど、あの怪物の大きさは以前戦った時と同じかな?」


「……いえ、一回り大きくなっていると思います」


「となると、周りの植物が枯れていることと関係がありそうだね。

 僕にはあの怪物がこの辺の植物の栄養を吸い取っているように見えるよ」


確かにそれが本当だとしたら、

植物の枯れていた範囲が拡大していたのも納得できる。


このまま野放しにしていたら、

怪物がさらに成長を続けて巨大化する未来が容易に想像できた。


「そうですね。自分もそう思います」


「情報屋の君が言うなら安心だ。

 もしあの怪物が今も成長し続けているのなら早く対処した方がいいだろうね。

 火月君、準備はいいかい?」


得物を強く握りしめた元田さんがこちらを見る。


元田さんの懐中時計は薙刀へと姿を変えていた。

刃の長さは二尺近くありそうで、

柄の長さも含めると七尺ほどの長さになるだろう。


ただ、普通の薙刀と違う点が一つあった。

それは石突から二尺ほどの部分に盾のようなものがあり、

持ち手を覆っているということだ。


鉄紺色の刃と十字花刺しの文様が入った盾……

謂わば盾薙刀を持った元田さんに向かって返事をする。


「いつでも大丈夫です」


「了解だ。それじゃあ作戦通りに頼むよ!」


そう言い終わると同時に木の陰から飛び出した二人は、

怪物がいる方へ走り始めたのだった。

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