第129話 水車

火月が自分を追い越して先に進んでいくのを見届けた礼一は、

心の中で安堵していた。


あらかじめ打ち合わせをしていたとはいえ、

怪物との戦闘では何が起きるかわからない。


植物の枝が伸びてくる攻撃は火月の事前情報通りではあったが、

その数が十本以上になるとは思っていなかった。

おそらく、これも怪物が成長した影響だろう。


自分のことを信用できないと思ったら、火月はサポートに入ったはずだ。


だが、それをしなかったということは少なくともこの局面において、

信用してくれたと判断してもいいだろう。

ならば、その期待に応えるのが筋というものだ。


迫りくる枝の気配をより正確に感じるため、静かに目を閉じた礼一は

両足を少し開くと得物を構える。


数秒後、一本の枝が目の前に向かってくる気配を感じると、

両手で握った盾薙刀を頭上に掲げて大きく振りかぶる。


その後、左足を前に出すのと同時に振り上げた得物を右肩のすぐ横に移動させると、刃を足元からすくい上げるように振るった。


眼前に差し迫っていた一本の枝が音もなく切り落とされる。

すると二本目の枝が待ってましたと言わんばかりに伸びてきた。


前に出した左足を引っ込めると、再度得物を振りかぶる。

今度は右足を前に出すのと同時に振り上げた得物を左肩のすぐ横に移動させ、

刃を足元から掬い上げるように振るう。


二本目の枝も紙切れのように切り落とされた。


以降三本目、四本目と続く枝の攻撃は、

まるで水車みずぐるまのような動きをする盾薙刀によって全て防がれる。


礼一はほとんどその場から動いておらず、息も上がっていない。

一挙手一投足に無駄がなく、洗練された動きだった。


『想像以上に柔らかい、これなら……』


前方に視線を向けると、火月が怪物の方へ近づいているのが見えた。

どうやら、ここまでは順調に進んでいるようだ。


ただ、油断は禁物だ。

慢心は必ずミスを生む。


直ぐに次の行動に移ることにした礼一は、火月の後を追って走り出した。

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