第125話 川

十分ほど道なりに進んで行くと、ようやく切り開かれた道を抜けることができた。


鬱蒼うっそうと生い茂った植物の景色は一転し、

小石や砂利を含んだ平坦な地面が足元に広がる。


さらにその先に視線を移すと川が流れていた。

川幅は四メートルといったところか。


水は茶色に濁っているため、

どのくらいの深さがあるのか皆目見当もつかなかったが、

どんな生物が潜んでいるか分からない以上、安易に近づく必要もないだろう。


それに、川の流れるスピードもそれなりに速いので、

誤って川に落ちでもしたら目も当てられない。


「これが、火月君の言っていた目的地になるのかな」


元田さんが興味津々といった表情で、川を見つめていた。


「はい。ここまで来れば、あとは川に沿って進むだけです」


「やっぱりそうなんだね。この川に着いてから、怪物の気配を感じ始めたんだ」


「お察しの通り、ここから十五分ほど歩けば怪物に会えると思います。

 おそらく、前回やり合った場所から相手は移動していないでしょう」


「なるほど……。でも、火月君の事前情報通りなら、

 と言った方が正解じゃないのかい?」


「確かに自分の見た情報通りなら、その表現の方が正しいのかもしれませんが、

 まだ怪物が奥の手を残している可能性も十分あります。

 なので、なるべく情報を断定することはしたくないんです。

 どんな地形の異界なのか、怪物はどんな攻撃パターンなのか等、

 事実を伝えるのが自分の仕事だと思っています。

 推測や憶測で情報を断定させるのは、相手を騙す行為に他なりません。

 もちろん、それが必要な時もありますが、

 少なくともファーストペンギンとしての仕事ではやらないようにしています」


「申し訳ない、軽率な発言だったよ。

 この仕事をする上で、事前情報の重要性は非常に高いものだ。

 自分でも理解しているつもりだったんだけど、まだ認識が甘かったらしい。

 一歩間違えれば、命の危険もある。

 だからこそ、伝える情報には細心の注意を払う……流石、情報屋だね」


元田さんが頭を下げてきたので、

「いえ、そんな大層なものでもないですよ」と返事をしておいた。


「とりあえず、ここで少し休憩をしてから先に進みましょう」


「そうだね。怪物の居場所が分かっているなら、

 何もこっちの体力が消費している時に攻める必要はないからね。

 万全の状態で臨むとしよう」


近くの岩場に腰を下ろした火月は、何となく目の前を流れる川を見据える。

上流から一メートルはありそうな流木が流れてきたと思ったら、

そのまま川の段差に落ちていく。

しばらく川を眺めていたが、流木が川面に浮かび上がってくることは無かった。

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