第124話 熱帯

湿気を含んだジメジメとした風が頬を撫でる。

頭上を見上げると、無数の木の葉が完全に空を覆い隠しており、

天気が晴れているのかどうかすらわからなかった。


辺りには、胸の高さまで伸びた葉の大きい植物が一面に広がっており、

歩いて進むだけでも体力を消費しそうだ。


火月達が扉を抜けて辿り着いた異界は、

まさに熱帯のジャングルのような場所だった。


何もしていなくても額から汗が流れてくるほどの気温のため、

長居は禁物だろう。


実界ではようやく秋らしくなってきたと思っていただけに、

夏に逆戻りした気分だった。


「見たことのない植物がたくさんあるようだね」


隣にいた元田さんが興味深そうに足元を観察していた。


「何か知ってる植物はありそうですか?」


「流石に異界の植物の知識は持ってないね。

 ただ、どんな成分を含んでいるか分からない以上、

 積極的に触る気にはなれないかな。

 見た目が地味でも毒をもっている植物は結構あるものだよ」


異界の怪物には気をつけていたが、

植物にまで意識を向けることが無かった火月にとって、

元田さんの発言は新鮮なものだった。


今後、ファーストペンギンの仕事をする時には、

こういった情報も集めておくことにしておこう。


役に立つかどうかはわからないが、

修復者によっては貴重な情報源になり得るかもしれない。


ふと周囲を注意深く観察すると、

地面の植物が横に倒れ、何かが通った後のような獣道があることに気づく。


いや、どちらかと言うと人工道といった方が正しいのかもしれない……。


というのも、以前火月がファーストペンギンとしてこの異界に来た時に、

自身で切り開いた道だったからだ。


「元田さん、道が開けている方へ進みましょう。

 少し歩けば川が見えてくるはずので、

 まずはそこを目的地とするのがいいかと思います」


「火月君の方がこの異界には詳しいのだから異論はないよ。

 それじゃあ、案内をお願いしてもいいかい?」


「わかりました。ただ、視界が悪いのは変わらないので、

 周囲への警戒は怠らないようにしましょう」


前回扉に入った時は、この辺りで怪物に襲われることは無かったのだが、

今回も大丈夫という保証はない。


元田さんが小さく頷くのを確認した火月は、先頭を切って歩き始めたのだった。

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