第123話 解釈

約束の時間の五分前に指定の場所へ到着した火月は、

元田さんが公園の入り口付近で立っていることに気づいた。


空はすっかり暗くなっていたが、

街灯が公園の入り口を照らしてくれていたおかげで、

直ぐに見つけることができた。


相変わらず周りは閑静な住宅街といった印象で、

前回は、昼間にファーストペンギンとしてここに来たが、

夜になるとその静けさは一層増しているように感じた。


歩いて近づくと元田さんがこちらに顔を向け、声をかけてくる。


「来て下さってありがとうございます」

と心底安心しきった表情をしていたので、

「約束ですから」と返事をする。


「本当は来てくれないんじゃないかと思ってました」


「そうなんですか?」


「はい……。中道さんは約束を破るような方ではないと、

 昨日お話してわかったのですが、どうしても心配性なもので」

と元田さんが自嘲気味に笑う。


「知り合ったばかりですし、当然かと思います」


自分がもし元田さんの立場だったら、同じことを考えていただろう。


だが、昨夜の作戦会議の途中で雑談をして、

お互いIT企業に勤めていること、

仕事で似たような悩みを抱えていることが発覚し意気投合した二人は、

別れ際には何処か親近感のようなものを感じていた。


「お気づきかとは思うのですが、

 実は中道さんにこの仕事を依頼すべきかずっと悩んでいたんです。

 でも昨日お話をした中で、あることに言及してくれたので、

 私は中道さんを信用できると思ったんです」


「あること……ですか?」


「はい、それは相手を見捨てる可能性についてです。

 確かに、この時計の能力は凄いものだと思います。

 一時的とはいえ、怪物と渡り合えるほどの力を与えてくれますから。

 ただ、注意しなければならないのは、

 この能力は万能ではないということです。

 多くの人は身の丈以上の力を手にした時、慢心する生き物です。

 まるで自分が世界の中心になったかのような、そんな気になります」


元田さんと目があったので小さく頷くと、そのまま話を再開する。


「会社でも、役職者になった途端性格が変わる人を見たことがありませんか?

 地位は人を作る……とはよく言ったものですが、

 その地位に胡坐あぐらをかいている人は少なからず存在します。

 話を元に戻しますが、つまり私が言いたいのは、

 時計の能力の限界を知っているからこそ、

 中道さんは私を見捨てる可能性について言及されたのではないでしょうか。

 人によっては、

 自分に任せておけと言ってくれる方もいらっしゃるかもしれません。

 でも、私にとっては、中道さんの発言こそが一番安心できる言葉だったんです」


正直なところ、

元田さんの信用を得ようと思ってあの発言をした訳では無かったが、

能力の限界については同意見だった。


自分一人で何でもできるわけではない、

むしろ自分の能力限界を理解しているからこそ、

ファーストペンギンの仕事をやっているのだ。


「少しでもお役に立てるよう、精一杯やらせてもらいます」

そう返事をした火月は、公園の入り口へ視線を向ける。


本来であれば、公園の入り口はアーチ型の小さいゲートになっているのだが、

今は白を基調とした木製の扉へと姿を変えていた。

横に傷が入った扉の四隅には水晶玉があり、上二つが紅色に点灯している。


「どうやら、自分たちで修復するしかなさそうですね」

と扉の状態を確認した元田さんが呟く。


「中道さん……いや、火月君。

 どうか、この扉の修復のために力を貸してもらってもいいかい?」


元田さんなりに気を遣って、フランクに話しかけてくれているのだろう。


「もちろんです。お互いベストを尽くしましょう」


そう返事をすると元田さんが先に扉の中へ入っていったので、

火月も直ぐに後を追った。

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