第122話 世界の見え方

元田さんとの作戦会議が終わり、アタルデセルを後にした火月は、

駅のホームで電車が来るのを待っていた。


時刻は午後十一時を過ぎたところで、

周りには電車を待っている人が数名おり、

まるで示し合わせたかのようにスマホを操作している。


仕事関係以外で連絡を取る相手がいない火月にとって、

一般人がスマホでどんなやり取りをしているのかなんて想像もつかなかったが、

きっと誰かと繋がりを持っているのが当たり前なんだろう。


自分のことを発信し、他人に理解してもらいたい、

共感してもらいたいといった、所謂承認欲求のようなものは誰にでもあるものだ。


そして、自分の考えと異なるものは徹底的に叩くか、

見えないものとして扱う人は一定数存在する。


人は見たいものしか見ない生き物だから、

ある程度は仕方ないのかもしれないが……。


また、自分の見ている世界が絶対的なものとして、

信じて疑わない人というのは案外何処にでもいるものだ。


だから、その世界がくつがえるほどの事実に直面した時、

自分を守るために


果たして、自分の見ている世界は、

そこまで信用に値するものなのだろうかと思う。


動物と人間では色の見え方が違う、

という話を聞いたことがある人は多いはずだ。


犬や猫といった多くの哺乳類は、

人間ほど細かい色の識別はできていない。


逆に、昆虫は人間よりも細かく色を識別することができ、

紫外線も見ることができる。


ここで、一つの問いかけをしたい。

それは、どの見え方が正解なのかということだ。


やはり、多くの種類を識別できる昆虫の見え方が世界の真の姿であり、

犬や猫の見え方は間違っているのだろうか……。


結局、正解なんて無いのだろう。


赤い花が灰色に見える生き物もいれば、黄色に見える生き物もいる。

つまり、見る世界がその人の数だけ存在するというのなら、

そこに本当の世界なんて存在しないのだろう。


自分の見ている世界が、絶対的なものでないことを自覚しているだけでも、

世界の見え方は違ってくるはずだ。


ふと構内に電車が到着する旨の音声が流れていることに気づく。


胸ポケットにしまってあったウォークマンの電源を入れると、

イヤホンを耳に着ける。


いつも聞いているFMのラジオに周波数を合わせると

ハロウィン特集をやっていた。


もうそんな時期かと思い出した火月は、ホームに停車した電車の中へ歩みを進めた。

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