第118話 片喰

河川敷沿いの道を黙々と進む。

藤堂の事前情報通り、少し歩けば直ぐにごみが見つかったので、

やはりここが一番の収集場所になりそうだ。


ごみの種類としては、ペットボトルや煙草の吸殻が特に多く、

膝の高さまで伸びた雑草の中に隠れるように捨ててあった。


目に見える場所に捨てるよりかは、多少罪悪感が軽減されるのだろうか。

だったら、最初から捨てなければいいのにと思う。


ごみは勝手に消えるものでは無い。

もし、昨日捨てた場所にごみが無かったら、それは必ず他の誰かが拾っているのだ。町を綺麗にしてくれている人がいることを決して忘れてはならない。


ごみを拾い始めて二十分ほど経過した頃だろうか……

後ろから誰かがぶつかってくるのを感じた。


ゆっくりと後ろを振り返り足元を見ると、小さい女の子が地面に尻餅をついていた。おそらく、ごみ探しに夢中になっていて、

気づいたら火月の足にぶつかってしまったのだろう。


片手に持っていた小さいごみ袋から空き缶が零れ落ち、

火月のズボンに泥水のような汚れが付着する。


ほどなくして、女の子の父親と思われる男性が後ろからやってきた。


「すみません! クリーニング代をお支払いしますので」


「いえ、大丈夫ですよ。

 そもそもこんな格好をしている自分が悪いので気にしないで下さい。

 それより、お嬢さんにお怪我はないですか?」


深々と頭を下げていた男性が顔を上げると、直ぐに女の子を助け起こす。


「ええ、いつものことなので大丈夫です」

柔和な顔つきをした男性が答える。


年齢は火月よりも高そうな気がした。

おそらく、三十代だろう。

女の子は四、五歳といったところか。


何にせよ、休日に親子でごみゼロ運動に参加するなんて、

殊勝な心掛けだなと素直に感心する。


「このお兄さんに、ちゃんと謝らないと駄目だぞ」

父親が女の子の目線の高さまでしゃがんて、注意していた。


「ごめんなさい」

と申し訳なさそうに女の子が謝ってきたと思ったら、

ダーッと近くにあるごみの場所まで走っていった。


「すみません……」


「いえいえ。子供は元気が一番ですから」


努めて明るく振る舞う。


面白いものでも見つけたのか、

女の子が右手に何か掴んだと思ったら、一直線にこっちへ戻って来る。

その表情は何処か嬉しそうに見えた。


「パパ見て! これ四葉のクローバーだよね?」


女の子の右手には、葉の形がハート型になっている植物があった。

葉の数は全部で四枚あったので、

これが四つ葉のクローバーなのかと思わず見入ってしまう。


「よーく葉の形を見てごらん。

 クローバーは葉の形が丸いけど、これはハート形になっているだろう?

 だから、クローバーじゃないんだ」


「そうなの?」

女の子が残念そうな顔をしていた。


「うん、これはカタバミって植物なんだ」


「四葉のクローバーじゃなきゃ幸せになれないよ?」


「そうとも限らないよ。

 四葉のカタバミは四葉のクローバーよりも見つけるのが難しいんだ。

 だから、四葉のクローバー以上に幸せになれるかもしれないぞ」


「本当?」

女の子の顔に笑顔が戻る。


心がほっこりするような二人のやり取りを見ていて

何とも形容し難い気持ちになった。


「それじゃあ、これお兄ちゃんにあげる!」


女の子が四葉のカタバミを差し出してきた。

まさか自分に譲ってくれるとは思っていなかったので面食めんくらう。


「ありがとう。でも、せっかく見つけたんだから……」

と父親の方に目配せすると、

「この子なりに、さっきのことを謝りたいんだと思います。

 なので、もし良ければ受け取ってもらえますか?」

と優しい表情で言ってきた。


「そういうことなら……」

と女の子からカタバミを受け取ると、ワイシャツの胸ポケットにしまう。


満足そうな顔をした女の子は、再び前に走っていった。

「ちょっと気恥ずかしかったのかもしれませんね」と父親が呟く。


「それでは、私も失礼します」と小さく頭を下げたと思ったら、

そのまま女の子の方へ歩いていった。


「中道さーん! そろそろ公園に戻る時間ですよー」


反対方向から藤堂がやってくる。

火月の胸ポケットの違和感に気づいたのか、


「ポケットに雑草なんか入れて、どうしたんですか?」

と心底不思議そうにしていた。

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