第117話 表裏一体

公園に到着すると、二十人ほどの老若男女が集まっていた。

ちょうど説明が終わったところのようで、各々がごみ袋を片手に散開していく。


先に向かった藤堂を探していると、ご近所の方々と談笑している姿が目に入った。


社外でも、そのコミュニケーション能力は遺憾なく発揮されているようで

流石だなと思うと同時に、その笑顔の裏に隠れた本性が、

いつ外に出てくるのだろうかと考えずにはいられなかった。


勘違いしないで欲しいのは、

別に裏の顔があること自体が悪いと言っているわけではない。


人はいくつもの仮面を使い分けて生きているものだ。


それを意識的にやっているか、

無意識にやっているかの違いはあるかもしれないが、

その状況に応じた仮面を身に着け、自分に与えられた役割を演じているのだと思う。


そう考えると、本当の自分とは一体何なのだろうか……と考えてしまう。


全てが作られたものなら、最初から本当の自分なんて存在しないのかもしれない。

逆に全てが嘘偽りない自分だと考えるなら、

きっとそれもまた一つの真実なんだろう。


話が終わったのか、藤堂が年配の女性に軽く会釈をすると、

こちらに駆け寄って来た。


「来るの遅いですよ。はい、これ」


「ありがとう」


藤堂から、ごみ袋を受け取る。


「細かい場所の割り当てはしていないようなので、

 各々見つけたゴミを拾っていく感じらしいのですが、

 毎回河川敷沿いにごみが集中しているみたいです。

 三十分ほど経過したら、公園に戻って集めたごみをまとめるので

 覚えておいて下さいね」


「わかった、それじゃあ俺は河川敷の方に向かう」


「それじゃあ、私は――」


藤堂が何か言いかけていたが、そのまま横を通り過ぎる。

少し強引に話を切り上げてしまった気もするが、これでいい。


仕事のことならいざ知らず、

修復者について変な詮索をされるのだけは避けたかった。


近くに落ちていた空き缶を拾うと、早速ごみ袋に入れる。

余計なことは考えず、今は自分に与えられた役割を演じることにしよう。


今日に限って言えば、ごみが宝に見えるのだから、

捉え方一つで世界は簡単に変わるものだなと思った。

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