第106話 空
「そんなことでいいんすか?」
要に作戦を伝えると、予想していなかったと言わんばかりに目を丸くしていた。
「ああ、要にしか頼めない仕事だ」
「そこまで言われたら、俄然やる気が出てきたっすね!
期待に応えられるよう精一杯やらせてもらうっす!」
「それじゃあ、所定の場所で待っていてくれ。その時が来たら合図を出す」
要がコクリと頷くと、怪物に気づかれないように移動を始めた。
これで、事前準備は整った。
あとは自分の役割を果たすのみ。
怪物のターゲットを取ってくれているねぎしおがいる方へ走り出す。
怪物は完全にこちらに背を向けているようだった。
これなら、こっちから不意打ちを仕掛けられるのでは?と思った火月は、
短剣を突き刺そうとしたが、当たる直前で怪物の姿が消える。
「こいつ……背中にも目がついてるんじゃないのか」
息を切らせているねぎしおに声を掛ける。
「ようやく、戻ってきたようじゃな。もう駄目かと思ったぞ」
額に大量の汗を浮かべており、相当頑張ってくれたようだった。
「本当に助かった。あとは俺の肩に乗って休憩してくれ……
といっても怪物の位置情報だけは教えてくれると助かる」
「それくらいなら、お安い御用じゃ」
ねぎしおが右肩に飛び乗ったのを確認した火月は、来た道を走って戻り始める。
「さっきと同じように、後ろから追いかけて来ているようじゃな」
「そうか、それなら好都合だ」
怪物との距離を開けるため、
最後の力を振り絞って更に移動速度を上げた火月は一直線に突き進む。
「ん? あやつ、距離を縮めるためにジャンプしおったぞ!
もう真後ろに迫っておる!」
ねぎしおが声を荒げていた。
『あと少し……あと少しだ』
後ろを振り向ている余裕なんて無かった。
もう怪物の攻撃が当たろうが関係ない。
自分がやるべきことは、怪物をとある位置まで連れていくことなのだから。
ようやく目的地の範囲内に足を踏み入れた火月は、要が待つ場所へ向かって叫ぶ。
「要! 今だ!」
窓枠のある壁の近くで待機していた要が、
手に握った棍を棒高跳びのような動作で地面に突き刺さすと、真上に大きく飛ぶ。
壁と天井の境目まで到達し、棍を頭上に掲げクルクルと回し始めたと思ったら、
その勢いを維持したまま棍を振り切る。
激しい衝突音と共に遺跡の壁と天井の境目が吹き飛ばされて、
ぽっかりと大きな穴が空いた。
その先に見えるのは澄み渡る青い空、
そして、燦々と輝く太陽。
火月がいる場所へ、上空から眩い光が降り注いだ。
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