第107話 一撃

走るのを止めた火月は、急いで後ろを振り返る。

怪物が自分を追いかけて来ていたのなら、この直射日光にさらされているはずだ。


あそこまでかたくなに日光を避けていたのだ、

怪物にとって相当都合が悪いのだろう。


何かしらの変化が起きることを期待しての作戦だったが、

それは同時に何が起きるか分からない作戦ともいえる。

だが、今はそれに賭けるしかなかった。


視線を上下左右に動かし怪物の姿を探してみるが、

やはり見つけることができない。


『駄目だったか?』


怪物が要をだましたように、日光が苦手なふりをしている可能性もゼロではなかった。

もしかしたら、状況は何一つ変わっていないのかもしれない。


「ねぎしお、すまないが怪物の……」


肩に乗っているねぎしおに怪物の居場所を尋ねようとした火月だったが、

目の前で起こり始めた異変に気づき、思わず息を呑む。


パキパキとひびが入るような音が聞こえ始めたと思ったら、

怪物の姿が薄っすらと見えてくる。

まるで透明なコーティングががれ始めたかのような印象を受けた。


「ようやく、透過状態を解除することができたみたいじゃな」


「ああ」


三十秒足らずで完全に姿を現した怪物は、眩しそうに目を細めてジッとしていた。

どうやら一歩も動けないらしい。


『自分の役割は果たした。残るは……』


頭上を見上げると、

要が棍を振り上げ、上段の構えを取ったまま落下してきていることに気づく。


「中道先輩の読み通りっすね! あとは任せて下さい!」


要が声を張り上げる。

あの様子ならもう大丈夫だろうと判断した火月は、

急いで怪物の近くから離れ始めた。


「火月よ、何故離れるのじゃ? お主も攻撃した方がいいのではないか?」


「冗談はやめてくれ。

 俺の攻撃が当たっても、怪物にとってはかすり傷程度のものさ。

 それに――」


「うおおおおおおおお!」 


話途中だった火月の声が要の叫び声にき消される。


怪物の頭上付近まで一気に落ちてきた要は、

両手で握った棍を力いっぱい振り下ろした。


怪物の頭部に要の棍が直撃し、大きい音と共に衝撃波が周囲に広がる。

怪物がそのまま床に叩きつけられると、土煙が上がり床に激しい振動が伝わった。

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