第95話 消失

目の前にいた要の姿が消え、右側の壁から激しい衝突音が聞こえる。


『……っ! 今の今まで全く存在に気付かなかった。一体いつの間に』


腰の短剣に手を伸ばしつつ、考えを巡らせていた火月だったが、

まずは要の無事を確認する必要があった。

ただ、今の状況で怪物から目を離すわけにもいかない……。


「ねぎしお、要の様子を見に行ってくれ。怪物こいつの相手は俺がする」


「う、うむ。じゃが、お主一人で倒せる相手とは思えぬぞ」


あまりにも一瞬の出来事に呆気にとられていたねぎしおだったが、

火月の呼びかけで我に返ったようだった。


「だろうな。でも、時間稼ぎくらいはできるはずだ」


「了解じゃ。我が戻ってくるまで、生き延びるんじゃぞ」


ねぎしおが要の飛ばされた方へ向かって、ちょこちょこと走り出す。

怪物の目がギョロリと動き、ねぎしおに狙いを定めているようだった。


「お前の相手はこっちだ!」


足元に落ちていた小石を拾い、怪物目掛けて投げ飛ばす……が、

身体にぶつかる直前に長い舌で跳ね返された。


怪物の目が火月を捉える。

どうやら、自分に意識を向けることには成功したらしい。


間髪入れずに怪物が舌を伸ばして攻撃を仕掛けてきたが、

こちらも攻撃を直に受けるわけにはいかなかった。


後方へジャンプを繰り返し、回避に専念する。


最初こそ勢いのある攻撃に見えたが、次第に目が慣れてきたのか、

数分後には難なく怪物の攻撃を見切れるようになっていた。


舌を使った攻撃は、もう観察不要だと判断した火月は怪物への接近を試みる。

近距離戦になった場合の攻撃パターンも把握しておきたかったからだ。


怪物の攻撃を回避しつつ、一気に距離を詰める。

腰の短剣を引き抜き、怪物の左腕へ刃を突き刺そうとした火月だったが、

その攻撃は虚しくも空を切る。


目の前で起きた事象が理解できず、その場で静止する。


『一体、何が起きた?』


攻撃があたる直前まで、間違いなく怪物はいたはずだ。

なのに今、その場所からは姿

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