第96話 苦戦
全神経を集中させて周囲への警戒を強める火月だったが、
怪物の姿が見えない以上、不用意に動くことができなかった。
少しでも動けば相手に見つかってしまうのではないか……
そんな漠然とした強迫観念に捉われていたのかもしれない。
それに、今は怪物の気配も全く感じないので、
既にこの場所から移動してしまったのではないかという可能性も捨てきれずにいた。
ただ、このままジッとしていても何も変わらない。
むしろ、時間が経てば経つほど神経が擦り減っていくので、
状況が不利になるのは目に見えていた。
まずは、自分の頭をクールダウンさせる必要があると判断した火月は、
右手に握った短剣を腰のホルダーにしまうと、目を閉じて大きく息を吸い込む。
その後、ゆっくりと息を吐き出し下腹部が限界まで凹んだタイミングで
静かに目を開ける。
『とりあえず、ねぎしおと合流した方が良さそうだな。
要の容態よっては、実界へ帰るケースだってあり得るだろう』
次にやることが決まったので、
ねぎしおが向かった方へ歩き始めようとした火月だったが、
直ぐ真後ろから怪物の気配を感じる。
『やはり、まだこの場所に残っていたか……』
瞬時に時計の能力を発動させると、真上に向かって大きくジャンプした。
すると、先ほどまで火月がいた場所を目掛けて、
怪物のなぎ払い攻撃が繰り出される。
能力を発動していなかったら、間違いなく直撃をくらっていただろう。
『こいつ、姿を消している間は気配も消せるみたいだな』
怪物の能力が判明しただけでも、十分な成果だった。
ファーストペンギンとしての仕事なら、ここで帰りたいところではあったが、
今回はそうも言ってられない。
『ただ、いくら能力が分かったとしても、どうやって攻撃を当てたものか……』
そこが一番の問題だった。
相手の姿が見えず気配も感じられないのなら、攻撃を当てるのは至難の業だろう。
再度、短剣で怪物に攻撃を仕掛けようとした火月だったが、
やはり直前で姿が消える。
今度は側面から怪物が姿を現すと、勢いのある舌の攻撃が火月に迫っていた。
『……っ! これじゃあ、自分が避けるので精一杯だ』
斜め左前方に飛び込むような形で何とか攻撃を回避する。
怪物の姿が見えている状態の攻撃なら難なく避けることができたが、
姿と気配が消えている状態からの不意打ちは、
火月の能力を発動した上で、ギリギリ回避できるレベルのものだった。
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